格ゲー少女

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 電子音のゴングが鳴り響き、歓声が上がった。 「やりましたぁ4人抜きです! 記念メダルの獲得まであと1勝!」  司会者の声に興味をひかれた通行人が集まってくる。街中のイベント広場に設営された会場で、対戦型格闘ゲームの大会が開催されているのだ。 『ギャラクシー・バンディッツ2 Uー12勝ち抜き戦!!  飛び込みOK! 君もeスポーツを体感しよう!』  カラフルな垂れ幕の下に、スクリーンを挟んで二つのゲームポッドが設置されていた。その一つに、次の挑戦者である少年が入っていく。 「リュウ、頑張れよ!」 「連勝ストップしろ!」  観客席から、年上の少年たちがはやしたてた。  リュウ少年は『ギャラクシー・バンディッツ』シリーズの主人公、地球人のアレンを選択した。金髪クルーカットの賞金稼ぎ、アレンは子供人気の高いキャラクターだ。サブモニタに表示された対戦履歴も、ほぼアレンで占められていた。  そんな中、トップに表示されているのはアレンの宿敵で暗黒惑星出身の暗殺者(アサシン)、クージーンである。  その使い手、現在4連勝中のプレイヤーはポッドに入ったままだ。観客は興味津々の視線を送るが、ポッド前面の窓からはコントローラに添えた細い腕が見えるばかり。  ポッドの脇には、二人分の荷物を抱えた少年が居心地悪そうに立っていた。額縁メガネにぽっちゃり体型の彼は、誰の目から見てもプレイヤーのオタ友という雰囲気である。 「3、2、1……GO!!」  開戦のゴングが鳴る。これまでに4人のアレンを(ほふ)ったクージーンは、5人目のアレンもあっさりぶちのめした。  空振り、無駄撃ちを繰り返すリュウ少年のアレンの攻撃をあっさりかわし、コンボの末に必殺技を決める。アレンの体力ゲージはたちまちゼロになった。  倒れ伏したアレンに背を向け、クージーンが暗黒惑星の言葉でキメ台詞をつぶやく。 「……ジジジ、ジジ、ジジジジジ(宇宙の塵め、吹き散るがよい)……」  会場がどっと沸いた。先にアレン側のゲームポッドが開き、リュウ少年が首を振りながら出てくる。 「相手やばかったな!」 「しゃーないしゃーない!」  挑戦者を慰めつつも、観客たちの視線は反対側のゲームポッドに集まる。いよいよ、5人抜きを達成したプレイヤーが出てくるのだ。  ポッドの扉が勢いよく開き、黒いTシャツに黒のスキニーパンツ、黒いキャップ姿の小柄な影が飛び出した。ほっとした様子のぽっちゃり少年とハイタッチをかわす。 「はあー、あっちい」  キャップを脱いで額の汗をぬぐうと、頬に髪の毛が落ちかかった。  その髪を慣れた仕草で耳にかけなおし、クージーン使いの少女は辺りを見回した。最後の対戦者が妙な顔でこちらを見ている。何か言ったほうがいいだろうか? 迷っていると、少年を応援していた一人が言った。 「お前、女に負けたのかよー! だっせえな」
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