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『w6jsq7wzさんから対戦申し込みが来ています』
承認ボタンをクリックすると、スクリーンが対戦画面に切り替わった。夜の繁華街を背景にポーズを決める武闘派ホスト。このキャラの使い手って、ナルシストっぽい人が多い。
試合開始と同時に、あたしは自分のキャラを前に出す。相手は下がった。
「なあ、恵ー」
さらに間合いを詰めると、ホストがおざなりなパンチを出してくる。ガードして、右フックを叩き込んだ。相手はよろめいて距離を取り、こっちが追うとまた下がる。
うーん。これAIだな?
格ゲーオタクのあたしは、ゲームを通して相手の人柄がなんとなく読める。お互いに顔が見えないオンラインゲームでは、特に性格が出るものだ。そのあたしの長年の経験が、こいつはAIだと言っている。
「恵、そっちが呼び出したんだよな? 聞いてる?」
格ゲー用AIが市販されたせいで最近はよく見かけるようになったけど、対戦前に申告しないのはマナー違反だ。指摘するのも面倒なので、さっさとフィールドの端まで追い込んだ。大技を出してきたらカウンターで仕留めてやろっと。
「恵、恵ぃ、恵さーん」
読み通り、追い詰められたホストが突っ込んでくる。相手の前進と同時にサイドに回り込み、ボディに左ストレートをきめてやった。同じところにもう一発。
左手のコントローラにぐっとくる手ごたえを感じつつ、右手でコマンドを打ち込み、実行する。
スクリーンの一部がムービーに切り替わった。あたしのキャラ(妻子を殺され闇落ちした格闘家)の背後に不動明王が浮かび上がる。
必殺技が発動し、パンチと蹴りの連続技で相手を吹っ飛ばした。
「おい恵! めぐ! めぐっぺ――」
「なぁんよ」
勝利ポーズが決まったところで振り返る。いとこの孝基が、ソファに座ってこっちを見ていた。額縁メガネ、ぽっちゃり体型の孝基は同世代の女子たちからキモオタ扱いされている。実はオタクじゃないし頭も性格も良いので、数年後にはモテてそうな気がする。言わんけど。
「なぁんよって何だよ。おれ、呼ばれたから来たんですけど。用事があるんじゃないの? わざわざゲームボックスに呼ぶってことはさあ」
あたしたちがいるのは元カラオケ店、現在はオンラインゲームポッドがレンタルできるゲームボックスの一室だ。部屋の中央にゲームポッドとスクリーン、その背後にソファ。ここのポッドはオープンタイプなので、ゲームをしながら話ができる。けどあたしはバイザーを外し、ポッドから出た。
パンツの後ろポケットから飛び出しかけていた端末を取り出すと、昨日撮っておいたスクショを送信する。孝基はすぐに気が付いて自分の端末をチェックした。
『M3G-p.online 様
いつも弊社のゲームをお楽しみいただきありがとうございます!
株式会社O-SCS 広報担当の千葉と申します。
さて、弊社の人気作品『ギャラクシー・バンディッツ3』が今年9月に待望のリリースとなりました!
それを記念して、GB3のオンライン大会(U-18)開催を計画しております。
M3G-p.online 様には特別招待選手として、出場をご検討いただけますでしょうか?
なお、本大会は弊社公式チャンネルでリアルタイム配信を予定しております。
お返事お待ちしております!
株式会社 O-SCS
広報部 コミュニケーションマネジメント部
……』
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