言の葉の落葉

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 図書館のそばに植えられている銀杏(いちょう)の木には、長きにわたり伝えられてきた噂がある。見た目は普通の銀杏と変わらず、秋になれば鮮やかな黄色の葉が落ちる。しかし稀に「短い文章が書かれた葉」が見つかるらしい。文章の種類は様々で、詩歌に戯曲、小説や実用書の一節と、バリエーションは豊富だという。文章が書かれた葉を見つけた者には、冬が訪れる前に良いことがあると聞く。  本当にそんなものあるのだろうか。葉に付いた染みを見間違えたんじゃないか。僕はそう思いながら、(くだん)の銀杏を見上げた。青空を背景にはらり、はらりと黄金色(こがねいろ)の葉が舞う。そのうちの一枚が足元に落ちてきた。見れば、葉の表面に黒っぽい文字が細々(こまごま)と並んでいるではないか。僕はしゃがみこんでその葉を拾い上げた。葉にはこう書いてあった。 Season of mists and mellow fruitfulness 霞と()れた豊穣の季節よ 僕はじっと文字列を見つめた。それから鞄から手帳を取り出して、最後のページを開く。噂が本当なら、どんな形であれ、豊かな恵みをもたらしてくれるかもしれない。そんな霞のように淡い期待とともに、落葉を挟みこんで、手帳を閉じた。もう一度見上げれば、陽射しを受けた銀杏の葉から、どことなく温かみを感じた。良い事がありますように。ありきたりな願いの言葉を胸にしまい、僕は銀杏の木を後にした。
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