零戦

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 泣くのかと思って眺めていると、不意に律が片手でふきの手を取った。もう一方の手を俺に突き出し、連れて行ってと言う。そうか連れて行ってほしいのかと合点し、手を握って家を出た。  妹達は足が遅かった。強く引っ張るとふたりまとめて転びそうになるので、俺は本当に思うように走れなかった。  日が暮れるぞというほど時間をかけて、ようやく畑の群れの端まで辿り着いた。  向こう側から、何人かの見知った男達が引き返してくる。  一台の自転車がおーいと言いながらこちらに近づき、片足を地面につけて止まった。岸の爺さんだった。あの婆さんの連れ合いだが、こちらのほうがよほど矍鑠(かくしゃく)としている。  おい、蜂矢(はちや)さんとこの。行くな。行っても無駄だ。 「なんで?」  もう兵隊が大勢来て通せんぼしてんだよ。なんにも見えやしねぇ。戦闘機が落ちただろうと言っても、落ちてねぇ、何もねぇ、帰れ帰れの繰り返しだ。 「……」  あの戦闘機……攻撃されたのか、勝手にぶっ壊れたのかは知らねぇが、とにかく俺達の町に落ちなかった。文字通りの死に物狂いで、誰もいねぇとこまで離れてから落ちたんだ。  たいした男だ。供養してやりてぇもんだが、あんな隠し立てするつもりなら、俺達にゃどこの誰かもわからず仕舞いだろうよ……。 「……」  じゃあな。気をつけて帰れよ。兵隊が見てっから、何か落ちてても拾うんじゃねぇぞ。 
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