65人が本棚に入れています
本棚に追加
泣くのかと思って眺めていると、不意に律が片手でふきの手を取った。もう一方の手を俺に突き出し、連れて行ってと言う。そうか連れて行ってほしいのかと合点し、手を握って家を出た。
妹達は足が遅かった。強く引っ張るとふたりまとめて転びそうになるので、俺は本当に思うように走れなかった。
日が暮れるぞというほど時間をかけて、ようやく畑の群れの端まで辿り着いた。
向こう側から、何人かの見知った男達が引き返してくる。
一台の自転車がおーいと言いながらこちらに近づき、片足を地面につけて止まった。岸の爺さんだった。あの婆さんの連れ合いだが、こちらのほうがよほど矍鑠としている。
おい、蜂矢さんとこの。行くな。行っても無駄だ。
「なんで?」
もう兵隊が大勢来て通せんぼしてんだよ。なんにも見えやしねぇ。戦闘機が落ちただろうと言っても、落ちてねぇ、何もねぇ、帰れ帰れの繰り返しだ。
「……」
あの戦闘機……攻撃されたのか、勝手にぶっ壊れたのかは知らねぇが、とにかく俺達の町に落ちなかった。文字通りの死に物狂いで、誰もいねぇとこまで離れてから落ちたんだ。
たいした男だ。供養してやりてぇもんだが、あんな隠し立てするつもりなら、俺達にゃどこの誰かもわからず仕舞いだろうよ……。
「……」
じゃあな。気をつけて帰れよ。兵隊が見てっから、何か落ちてても拾うんじゃねぇぞ。
最初のコメントを投稿しよう!