昭和二〇年三月

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 さっきも、不明機の警戒警報で起きてしまってから一悶着あったのだ。眠い目をこすり、膨れっ面をして、兄ちゃん、花冠を作ってほしいとねだった。なんで今そんなこと言うんだと思いつつ、できねぇと答えると、わんわん泣き出した。  なんで。なんでできないの。兄ちゃん、前は作ってくれたのに。白い花冠をいっぱい作ってくれたのに。春になったらまた作ってやるって言ってたのに。  もう冬は終わったよ、春になったよ。作って、作ってよ。なんで作ってくれないの。  見かねたお袋が、ふたりの小さい背をさすりながら宥めていた。  泣くんじゃないよ。(かい)は作りたくないなんて言ってないだろう。うちの周りはまだあんまり花が咲いてないんだ、だから作れないんだよ。  白詰草(しろつめくさ)の冠、夏にみんなで押し花にしたのがあるだろう。出してやるから、今はそれで我慢しな。  もうすぐ、これからもっとぽかぽかあったかくなって、蒲公英(たんぽぽ)が満開になるよ。そうしたら魁が、今度は黄色い花冠をたくさん作ってくれるからね。  一方、親父はじろりと俺を見て言った。  魁よ、てめぇは言葉が足りねぇんだ。できねぇ、とだけ言うんじゃなくて、(はな)っからああいう風に言えばいいだろうが。  腹ん中で考えてることを、ちゃんと相手に伝わるように言え。そうすりゃあ、律もふきも泣かせねぇで済むだろうが。……
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