零戦

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「なんでだろうな」  自分の独り言で我に返る。  帰宅した俺は茶の間にいた。以前親父から、少しでも頭がましになるように毎日新聞を読めと厳命されたので、この時間は辞書を片手に新聞を広げていることが多かった(あの頃のあんなもん読んで頭が良くなったとは思えないが、読める漢字はそれなりに増えた)。  ちょうど辞書があることだし、魁という字を調べてみようかという気が起こった。が、できなかった。下の妹が俺の胡座(あぐら)によじ登り、上の妹も勢いよく背中に飛びついてきたからだ。  下の妹が言う。兄ちゃん、の名前言って。 「……ふき」  もっといっぱい言って。 「ふき、ふき、ふきふきふきふきふきふきふき」  ふきはニタニタ笑って聞いている。  上の妹が後ろから、ずるーい! (りつ)も呼んで! と口を尖らせた。 「律、律、律律律律律律律」  ふたりしてキャーキャー笑う。一体何がおもしろいのかわからないが、妹達は毎日飽きもせずこれをねだった。  どちらも短い名前だが、素早く正確に繰り返すとなるとやや言いづらいものだった。それでも求められるがまま、あの頃の俺は、日に何度も妹達の名前を呼んでやっていた。
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