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縁側に飛び出した。
それはすでに俺達の真上の出来事だった。一機の戦闘機が驚くべき低さで飛んでいる。いや、
「飛んでねぇ。落ちる……」
近所のやつらも気づいたようだ。そこかしこで怒号と悲鳴があがる。
下半身が揺れた。しがみつく妹達を両腕に抱えながら、俺はなお上を凝視し続けた。上下逆さまの深緑の機体、日の丸、必死の形相の男の顔。
赤黒い煙を纏い、尾を引きながら、戦闘機はぐいと上向きに飛翔した。夏の太陽めがけてやけくそのように高度を上げ続けたあと、錐揉み状に回転しながら北の田園地帯へと突き進む。
焦げた米粒くらい小さくなった頃、それは唐突に落下した。
俺は玄関に走って靴を履いた。妹達が追いかけてくる。兄ちゃん、兄ちゃんどこ行くの。
「見てくる。お前達はここにいろ」
やだぁ! なんで! 律も行く! ふぅも!
「危ねぇから」
やぁだぁ! なんでぇ!
「……?」
なんでと訊くから理由を述べたのに、もう一度なんでと訊く。こうなってしまうと、俺はもうどう返事をしてやればいいのかわからなくなる。
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