傍観者

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 私には母が勝ち取ってくれた慰謝料のお陰で持ち家 (一軒家)がある。一人で暮らすには広すぎて、幼馴染で小学校教諭の岡部ミカ(おかべみか)とルームシェアをしている。彼女のご両親は定年退職を機に故郷で第二の人生を謳歌しており、近くの小学校が勤務先なのでそこそこ仲良く共同生活をしている。  そこにひょんなことというか何というか、転職で実家を出た香津が転がり込み、三人の共同生活が始まる。それから何ヶ月もしないうちに彼女の友人である吉原由梨(よしわらゆり)まで入り浸るようになり、結果的に四人での共同生活となってしまった。  これまでの静かで平穏な生活は二人の乱入によってあっさりとぶち壊される。堅実型のミカと私とは正反対で奔放型の香津と由梨、お互いに気持ち良く生活するためのルールも平気で破り (二人にかかるとルールは破る為にあるらしい)、次第に家の中は無法地帯になっていく。  せめて家事は当番制にと獣思考の二人を説得し、どうにか軌道には乗せたものの……はっきり言ってしまえばこの二人とは極力関わりたくない私、誰よりもきっちりとした性格の為にイライラを募らせるミカ、どこまでもマイペースだが文句は言わないだけマシな由梨、ルールを決めてもマナー力皆無な香津。そんな共同生活ではトラブルの火種など消しても消しても燻り続け、華麗なる傍若無人女香津が遂にやらかしてくれた。  この日私は雑誌に載せる記事の打ち合わせで出掛けていた。香津は最近できたと思われる若い恋人を事ある毎に連れ込み、既に由梨を味方に付けていた。お陰でミカの怒りは日に日に募り、帰りたくないのかこのところ残業三昧だ。私もできれば関わりたくないのでなるべく部屋から出ないようにしており、幸いアルバイトにも多く入れて下手すれば大学生かと思える馬鹿男とは一度しか顔を合わせていない。
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