傍観者

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 「確か4LDKのマンションを購入したって話してた妻子持ちの編集者さんに『プライベートルームですか?』ですよ、話の前後ちゃんと聞いてないし、一人暮らしで4LDKも要らんでしょ? って思いましたもん」 「本人が当時一人暮らしで4LDKだもん、通勤で使う車が一千万する真っ赤なベンツ、どんだけブルジョワなんだって感じよね?」 「当時は公になってなかったけど多分御曹司の貢物ですよね? ベンツなんて二十代平社員が買えるレベルじゃないですもん、ご実家は普通のサラリーマン家庭らしいですし」 「身に着けてた物もいちいち高級ブランド物でね、一般的な二十代のお給料では間違いなく破綻するわ、話し方も一見下手で穏和なんだけどそれがかえって嫌味なのよ」 「挙句使ってた撮影スタジオのビルのオーナーが例の御曹司で、その日何故か現場に来て仕事中にも関わらず奥様との私語が煩かったんですよ。只でさえそういうのって有り得ないのに、公私もきちんと弁えられないドラ息子」 「本当にドラ男っぽければともかく、下手にルックスだけは良いから余計に印象が悪くてね」  とまぁ女二人が寄れば話が止まらない止まらない、鳴海さんと相川さんからしたら仕事中に騒がれるのは腹立たしいと思う。自由業はその場その場が真剣勝負、それで我が身の進退が決まることだってあるのだから横槍を入れてくるようなことをされたらたまらない。松井さんも私も随分とマナーの悪い男だなと思わず頷いてしまった。 「まぁマナーが悪いのは困るよね」  と松井さん。彼女も週刊誌担当時代があったから、ひょっとして二人が話してたような内容をご存知だったのだろうか? 「悪運尽きた人間の成れの果てを見ている気分です」
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