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『愛してる』言葉そのものはとても素晴らしいと思う、心を込めて言われたら死んでた心も生き還る魔法の言葉だ。しかしそれが呪文(読んで字の如くの意味で捉えて頂きたい)になっていたらどうだろう? 相手にとってはただただ重荷で時には人権すら握り潰してしまうのではないだろうか? “グレートマザー”のように。
「麻帆ちゃん?」
伊織に呼び掛けられて私の脳内は現実に引き戻される。どうも考え事をしていると周りが見えなくなってしまう、子供の頃からの悪い癖だ。
「ごめん、ちょっと考え事してた」
「そう。でも『幸せ』って何なんだろうね? 他人事のゴシップネタではあるけど真剣に考えちゃった。職場でも最近この話題で持ちきりなんだもの」
「本当そうよね、『十年愛美談婚』なんて下手に銘打っておいてこのザマだからね。玉の輿もなかなか命懸けだわ」
「ちょっとそれ不謹慎だってば」
伊織はそう言ってる割に笑ってる。それも十分不謹慎だからね、私も彼女の態度に吹き出してしまい、真剣に話してたのが嘘のようにゲラゲラと笑い合っていた。
人の噂も七十五日とはよく言ったもので、あれほど世間を賑わせた『エセ美談婚』もいつの間にか風化したニュースとなっていた。そんな中私は取材旅行と執筆活動でひと月ほど出勤できないので、それを伝えにアルバイト先の事務所に顔を出していた。
幸いここで働くアルバイトたちは何らかの夢を持っていたりダブルワークをしている人たちが多く、私がライターをしていることもあっさり容認してもらえている。こうして長期間の離脱があっても文句を言われることは無いし、定期的に事務所に生存の電話を入れておけば復帰もあっさりできるのだ。
「今回は長丁場だね、お手数だけど一週間毎にここに電話だけ忘れないで」
「分かりました。入れる日が決まったら直接電話します」
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