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「うん、それで宜しくね」
「はい」
普通の会社員ではあり得ないくらいに簡単なやり取りで長期休暇を取得する。これが保障の無いアルバイトの特権なのだろう。
私はシフト管理の担当者と少し話をしてから会社を出る。そういえば取材旅行があるとミカには必ずお土産を買っていたけど、あの二人にも買った方がいいのだろうか? 例の話題で多少打ち解けてきたとはいえ、私は敬語を崩していないし二人ともプライベートな話はしてこない。かといって何も無しというのもどうかと思うので、数が多めのお菓子でも買ってダイニングに置くという感じにしておこう。それを決めただけで気が楽になった。
取材旅行当日、新幹線駅で今回担当してくれる女性編集者と待ち合わせしていると男性の声が私の名を呼んできた。誰? あまり聞き覚の無い声だったので少々不気味に思ったが、よく見てみると仰木大和だった。彼はスーツ姿でスーツケースを従えている、恐らく出張か何かだろう。
「ご無沙汰しています」
一応成人女性と言うやつなので最低限の挨拶はしておく。
「取材旅行なんだってね、檜山と一緒なの?」
「いえ、今回は女だらけです」
と話していると待ち合わせ相手である編集者がやって来た。
「お待たせしました」
「いえ、私もさっき着いたところです」
今回同行してくれる編集者の松井さんは檜山の先輩にあたる女性で、私も親しくさせて頂いている。
「それじゃ行きましょうか。仰木さん、私たちは時間なのでこれで」
「えっ? まだ時間あるじゃないですか」
「ここで駅弁を買うところから取材は始まってるの、それに今回は私たちだけじゃないから」
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