傍観者

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 その点は松井さんもなのだが、こうして一流の方たちと仕事をすると如何に自分が体たらくで怠け者かという現実に向き合わねばならない。実際のところはそれすらも気にしている場合ではないくらいに目の前の事に集中しておかないと足を引っ張ってしまう。  少人数とはいえ団体行動、自身が不器用で行動がとろくてもそれは言い訳にすらならない。それなら下準備を怠らなければ防げる範疇のことなのだ。自身の力量くらいは把握しておけというだけの話である。  私にとっては取材旅行が終わってからが勝負、今回の企画は出版社内でもかなり気合を入れているようで、駆け出しで書籍出版も無い私ごときに個室を提供して生活の面倒を看てくれることになっているので責任は重大だ。 「今回は普通に楽しんでしまいました」 「そうね、それが読者様に伝わる記事になればきっと売れると思う。期待してるわよ」 「はい、頑張ります」  私は用意されている個室に入り、人生初の“カン詰め”を経験した。執筆に没頭できる環境に身を置けるのはありがたいが、環境が変わると睡眠が取れなくなる神経質振りに苦戦した。  兎に角眠れない、疲れているのに目が冴える。それで仕方なく執筆する、仮眠程度の睡眠を取る、起きて前夜の原稿を見てドン引きする……小学生の日記の方がまだまともなんじゃないかと言うくらいの浅い文面だったことにはさすがに落ち込んだ。  こうなってくると少し気分を変えたくなる。私は内線電話を手に取り、散歩に出れないものかと交渉してみる。 『俺が同行する分には構わんが』  そう言ってきたのは檜山だった。まぁ何でもいい、とにかく外に出たかった。 「それで構いません、外の空気さえ吸えたら」
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