傍観者

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 できれば松井さんの方が……と言いたかったが、休日を返上させてまでお願いするのは忍びない。ここは檜山であっただけラッキーということにしておこう。  私は簡単に身支度を済ませて部屋の外に出ると既に檜山が待っていた。何日振りかに見る見慣れた顔、少し痩せたような気がする。 「すみません、お待たせして」 「気にしなくていいさ、あまりうろつかれても困るしな。んじゃ行くか」  檜山に先導してもらうかのように私は短い脚を必死に広げて彼の歩調に合わせる。檜山は兎に角歩くのが速い。身長こそ日本人男性の平均身長くらいなのだが、私の身長が百五十四センチメートルしかないために彼と合わせて歩くのはなかなかの運動になる。 「もう少しゆっくり目に歩いて頂けると助かります」  誰もいなければ『歩くの早いよ!』くらいのことは言えるのだがここは○○出版社内、要らん言動は謹むべきである。 「良い運動になるだろ短足」 「そもそも身長差があるのですから『短足』は不的確かと」 「おぅそうかチビ、制限時間は一時間だ」  予め用意してやがったなその言葉。相変わらず配慮を見せてくれない先輩の背中を私は恨めしく見つめていた。   どうにか原稿を書き上げ自宅に戻ると平日にも関わらず由梨がいて驚いた。 「お帰り麻帆ちゃん」 「ただいま戻りました……」  私は兎に角ベッドに横になりたかった。挨拶もそこそこも部屋に荷物を置こうとすると再び声を掛けられた。 「麻帆ちゃん今日トイレ掃除だよね?」  それ今言うか? 一応“カン詰め”明けでそれなりに疲れてるんだから仮眠くらい取らせてほしい。 「そう、でしたね」  取り敢えず荷物を部屋に放り込み、フラフラとした足取りでトイレに向かう。仮眠取りたいと主張したところでネチネチ文句言われるのも面倒臭いのでさっさと済ませてしまおう。
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