傍観者

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 「えっ? 仕事関係の方じゃないの?」  ミカは玄関から離れ、声をひそめて訊ねてくる。 「そうなら事前に連絡受けてるわよ」 「それもそうよね。ちゃんと名乗るだけマシそうだから開けるわよ」 「危なかったら殺虫剤顔面に吹っ掛けるのよ」 「分かった」  ミカは殺虫剤を持つ左手を背中に回し、チェーンを外さずにそーっと玄関を開けると、安っぽいスーツに身を包んだ香津の“若い彼氏”だった。 「何か御用でしょうか? こんな時間に訪ねてきて」  ミカは相手が分かると一気に強気な発言になる。いやでもマジでこんな時間の訪問はご勘弁して頂きたい。私も相手が分かった途端思考が逸れる緊張感の無さ……それくらいにこの男の訪問は拍子抜けとしか言いようが無かった。 「あの、西山香津さんはご在宅でしょうか?」 「いえ不在です、事前に連絡は取り合われたんですか?」  ミカはこの男を毛嫌いしていたのでまぁ話し方の冷たいこと冷たいこと、だからって女だらけの他所様の家でセックス三昧の野郎に同情してやる気は全く無いが。 「それが急に連絡が取れなくなってしまったんです」  新垣仁志は小さな体を更に縮こませて弱々しい声で言う。うん、若いだけで全く可愛くないわ。ミカも同じことを考えているようで徐々に表情が険しくなっていく。 「振られたんじゃないんですか? それくらい察したらいかがです?」  うん、そう思うけどコイツにはちょっと酷なんじゃないかなぁ~と思う私、だって馬鹿そうなんだもの。 「それならそれで連絡くらいくれても」  言い分は分かるが、同居人というだけの理由で泣きつかれても知ったこっちゃない。恋愛は当事者以外の人間ではどうすることもできないのだ、自分で何とかしやがれ。 「とにかくここにはおりませんので、どうぞお引き取りください」
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