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あとはこの町に馴染めるかどうかだ。
「じゃあ、ちょっとだけポスティングして、あとは業者さんの対応してからにしようかな」
「なにも萌さんやんなくても、小夏ちゃんと私で回れると思うけどな」
ふわふわとカールした茶色の髪がよく似合う唯香は私の一つ下。仕事の手際が良くて接客のスキルはかなり高い。
正直、彼女が店長の方が向いていると思っているし、オーナーにも打診したが断られてしまった。
「明日が本番なんだから、みんな体力温存しとかなきゃ」
「それ、萌さんに返しますー」
ちょっとじゃれ合いながらガラス磨きを楽しんでいると、背後から声がかけらた。
「あの・・・」
「はい?」
二人で同時に振り向くと、小柄な女性が立っていた。
「ここ、また美容室なのかしら」
年齢は七十代後半から八十代前半と言った感じで、少し背が曲がり、痩せ気味の足がとても細い。
「・・・あー。そうです。また美容室なんですよ~。経営者は違うけど」
唯香さんが答えている間にそっと店内に入り、チラシと名刺を取りに戻った。
「初めまして。『pica pica』の店長で八澤萌と言います。よろしくおねがいします」
「ぴか・・ぴか?」
看板は完成しているが、それだけでは何の商売をしているかわかりづらいかもしれないことはわかっていた。
「はい。カササギって意味です。可愛いらしくて覚えやすいかなと思いまして」
「カササギ…。ああ、鳥のマークがついているのはそういう意味なのね」
店名のバックにカササギのシルエットを入れていることに、名刺を見て気付いてくれたようだ。
「はい。明日から開店しますので、もしよろしければご利用ください」
「あの・・・。図々しいことは承知で言うのだけど、今日お願いできないかしら」
「え・・・」
まじまじと顔を覗き込んでしまった。
思わず口をついて出てしまったのだろう、老婦人も困惑している。
「あ、失礼しました。今日は・・・」
機材は揃っている。
朝一番で少し予行練習をしてみたから足りないものはないが、髪を染めたりパーマをするのは時間的に無理だ。
「ごめんなさい、カットだけでもいいの。前はここからもうちょっと行ったところの美容室へ通っていたのだけど、さいきんどうにも膝が痛くて・・・」
話を聞くと、このマンションの住人だった。
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