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「あれはまさに、福の神だったわね」
ビールを飲み干した後、麗奈はしみじみと言った。
「どっちかというと、わらしべ長者でしょう」
店員が運んできたつくねの皿を受け取りながら香恋が応じる。
「いや、なんかありましたよね。もっとぴったりな昔話。年寄り助けて勝ち組になるやつが」
唯香が空いた皿を重ねてテーブルのスペースを開けた。
「かちぐみ・・・。いやいや、そこまで到達していません、まだ」
「いや、マジ勝ち組だから。なんなのよ、たった半年でこの収益」
「人間技じゃないわあ」
「謙遜もほどほどにしないと嫌味ですね」
美女三人が速攻で萌の反論を封じ込めた。
「・・・小夏ちゃん、九州風の焼き鳥って面白いね。キャベツ食べ放題で」
目をそらし、キャベツを自分の小皿にどんどん盛り上げて話も逸らそうと試みる。
「私に逃げないでください、店長。それと、キャベツばっかり食べないで肉食べてください、肉」
萌の心のオアシス、最年少の小夏からさえもけんもほろろにあしらわれてしまった。
「食べているよ、それなりに」
酢がたっぷりかかったキャベツを食みながら反論するが、四人の呆れかえった視線が痛い。
「いや、頼むから食べて、肉」
「何しにこの店来てるのよ。焼き鳥屋で野菜食べてなんになるの」
「そんなんだから馬力ないんですよ店長」
矢継ぎ早の口撃にもはや、店長も形無しだ。
豚バラのくしを手に取った。
「ごめんなさい。食べます・・・」
降参するしかない。
開店からおよそ半年。
現在この五人で店を回している。
メインは萌が店長、唯香が副店長、そして高等専門学校の後輩で新人の小夏の三人。そして前の勤務先での先輩で子育て中の麗奈と香恋が助っ人程度のパートと言う形で始めたが、もはや彼女たちは常勤に近い状態になっている。
なぜなら、ひと月も経たない間に予約がびっしりと埋まってしまうようになってしまったからだ。
きっかけは、開業前日に偶然出会った老婦人の頼みを萌が聞き入れたことだった。
富田、という上品なその女性は店舗がテナントとして入っているマンションの住人で、実はひと月ほど前に転倒して入退院、近所に住む娘と孫たちが近々訪ねてくるのにせめて見苦しくないように整えたいと悩んでいたところ、新規開店の美容室に気付いたというわけだ。
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