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後日、事の経緯を聞いた娘が慌てて店にやって来て頭を下げた。謝礼を固辞すると、では仕事を依頼したいと言われ、いつのまにか七五三の着付けの打ち合わせに発展した。
お宮参りの当日、七歳の長女と五歳の長男、そして母親と祖母の和装着付けを行い近所の神社へ送り出したところ、それを見た商店街の人々に好評で、和装関連の依頼が立て続けに舞い込むようになった。
もともと萌と唯香は前歴に銀座が絡み、着付けと髪のセットに強かった。そして子育て中だけに麗奈と香恋は子供の扱いが上手く、鋏を怖がる幼児のカットも難なくこなせる。そして富田のような熟年層のカウンセリングも上手と言う評判も加わり、芋づる式に客が付いていった。
正直、怖いくらい順調な滑り出しだ。
「オーナー、うちらを公式から外したの、そろそろ後悔しているんじゃないですか」
唯香がメニュー表めくりながらぽつりと言う。
「ああ、ねえ。うちらを隠しコマンド扱いにしてるけど、もしかしたら利益率は二号店三号店抜いてるんじゃないかって噂あるからね」
麗奈の返事に萌は憂鬱になった。彼女は長年勤めていただけに伝手が多く、情報を掴むのが早い。良いことも悪いこともあっという間に拾ってしまう。
「そもそもうちは賃料が格段に安いからであって、あっちと規模は全然違うんだから比べないで欲しい・・・」
オーナーの奥寺が経営している店舗は流行に敏感な場所を狙い撃ちして片手では足りない数に上る。著名人のSNSにも登場し、そこで髪を整えるのが若者たちの間でちょっとしたステータスにもなりつつあった。
それに対し真逆なのが萌たちの店舗である。商店街の片隅にあるこぢんまりとして昔ながらの美容室を思わせる店構え。廃業した前の経営者が失敗した理由の一つはモード色が濃く敷居が高かったのではないかと言う萌の意見に奥寺が折れ、その代わり公式サイトに載せないことで決着したのだ。ついでに指名制を廃止して値段も安めに設定し、経費ぎりぎりの賭けに出てみた。
「今のところ順調なのは幸運が重なっただけと、ご理解いただけませんでしょうか…」
「ムリムリ。あっちの新店長たちは逆に苦戦してるから、萌ちゃんが鼻ぽっきりへし折ったってもっぱらの噂よ」
萌がこの店へ着任するタイミングでグループ内も大幅な人事異動が行われている。
ちょうど店長クラスが離職したせいもあり、数名が昇格した。
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