人生である必要性

1/1
0人が本棚に入れています
本棚に追加
/1ページ
2019年に発生したCOVID-19という名の厄災は、十年も経ないうちに地球を席巻した。 厄災に追われた人類は互いに隔絶し合い、完全滅菌された保護カプセルの中で生を全うするという生態に移行する。 保護カプセル内部における空間環境はVirtualRealitySystemによって完全に補完されており、人類は瞬く内に『物理世界』という現実を忘れ『電子世界』という現実を受け入れた。 栄養も水分も全て人工集積知能による機械管理によって完璧に調整され、人類は完全に地球生物としての楔から解き放たれたのである。 オンラインの中で生まれ、オンラインの中で死んでゆく。 外の世界を見ることもなく、認識することもない。 全てはオンラインネットワークが見せる夢幻であり、されど『外』という現実を認識できない人類にとっては、その夢幻こそが現実であった。 我々はいつから、この『現実』を『現実』として認識しているだろうか。 瞳に映している世界の『外』が、宇宙の『外』が無いなどと、どうして言い切れるだろうか。 我々は結局、何も知り得ぬ間に死んでゆく小さな存在でしかないのだ。 祖先よりの『夢』を後世へと託し、そしていつしか、存在するかも分からない『外』へと出られることを、希って止まないのである。
/1ページ

最初のコメントを投稿しよう!