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1 眠り王子
校庭からにぎやかな声援が聞こえてくる。
体育の授業中、試合形式のようで、男子も女子もごちゃ混ぜ状態でサッカーボールを追いかけている。
夕べの雨で出来た水溜りもなんのその、男子は泥水を浴びながら敵を避け、(もちろん下半身は無残に泥まみれだが)ぬかるみに足を取られ転倒者続出、それを見た女子連中が楽しそうにキャーキャー言っている。
(青春だ……ベタだけど)
一階に位置する保健室。窓のブラインドに指を引っ掛け、外を見ていた校医の才郷希澄は、視線を室内に移した。保健室内に並んでいる二つのベッドのうち、片方は二時間前からずっとカーテンが閉められたままだ。
(もうすぐ四時間目が終わっちまうなあ。――そろそろ声をかけねえと)
白いカーテンをほんの少し開け、中の様子をうかがう。規則的な寝息はまだ続いているということは、ぐっすり眠っているらしい。
(おいおい~、このまま爆睡するつもりかー)
再びカーテンを閉めた。
小さなノックの後、女子生徒が顔を覗かせた。保健委員の子だ。
「きいちゃん先生、矢倉くんの様子どうですか」
「まだ気持ち良さそうに熟睡してるよ。金子先生にはオレから報告入れとくから、もう食堂行っていいよ。ごくろうさん」
心配そうな顔はホッとした表情になり、パタパタと廊下へ出て行った。
報告書だけ先に書こうと、机に向かう途中、カーテンの中からベッドの軋む音がした。
「――先生、今何時?」
まだ半分眠っているような声だ。季澄はカーテンを半分開けた。
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