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あおが酷いことを言われてひとりぼっちで佇んでいるのを見ているだけだった。
体が動かなかったんじゃない、わざとそうした。あおが「かわいそう」だと思っていたかったから。
私は知っていたのに。あおが優しいひとだって、知っていたのに黙っていた。
きっと話せばいつかみんなわかってくれた。だってあおは本当に優しい人だから。わかってもらおうとすれば、いつか伝わるはずだった、私はそれを知っていて、そうしなかったんだ。
そのくせ、最低な自分を偽って、あおの前では優しい自分を演じた。
あおに離れていってほしくなかったから。私にはあおしかいなかった。だから、あおにも私しかいなくなればいいと思った、どうしてあんなやり方できみを閉じ込めてしまったんだろう。
私たちは大人になった。
私たちは今もふたり、一緒にいる。
私はずっと、こうかいしている。
どんな顔をしてあおの隣にいればいいかわからない。
最低だったあの頃をぜんぶ、消してもう一度やり直せたなら――――私は、そのときはちゃんとあおを手放せるのだろうか。
「え? どうしたの急に?」
“ごめんね”と急に謝った私に、あおがきょとんとしている。
私は一度俯いて、それから顔を上げてへらりと笑った。
「……ううん、何でもないや」
あお、すきだよ。
ずっと、そばにいて。
――――ごめんね。
end.
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