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「なんだ、泣いているのか?」
「……玉ねぎ、お前のせいだ」
鼻水も出て来た。ただの空気の通り道では無かったらしい。包丁にも玉ねぎの汁が付いていたから洗って他の野菜も切る。なすが「ざんすざんす」うるさかったのだけ覚えている。
「よし全部切ったな、じゃあワシらを丁寧に炒めろ」
「よろしくお頼み申し上げるでござる」
玉ねぎは細かく切られても尚、偉そうに話す。ニンニクは少し面白いし、丁寧だから許してやろう。鍋に放り込むと油と水分が爆ぜていい音を立てた。しばらく炒めると、ニンニクの良い香りと玉ねぎの甘みが漂って来た。
「なかなか良いではないか。次はゲスとごわすを入れてくれ」
ゲスとごわす?ああ、にんじんとじゃがいもか。それよりなかなか良いって言ったのか、玉ねぎは。褒められたのなんていつぶりだろう。この玉ねぎを買いにスーパーへ行ったときよりずっと前である事は確かだ。適度に油を纏い、根菜達が美味しそうに照り始める。
「そーっとざんす!あちきは繊細ざんす!」
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