自殺を考えている会社員T

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 冷えきった空気の中を歩く。鼻がツンとして、頬がぱりぱりする。冬だし死んだら腐るまで時間がかかるのだろうか。臭いが強くなる前に誰か見つけてくれるのだろうか。死んでしまったらそんなのは関係ないか、頑張って生きている人間にあとは任せよう。  隣に誰が住んでいるのかすらも分からないアパート。希薄な人間関係だが悪くはない。それが人間の本質だ。自分に満足出来ていれば存外他人の存在なんて気にならない。自身不満足の人間も違う意味で都合がいい。ただでさえ自分で自分を見下しているのに、これで他の奴と会ってみろ。(はらわた)が煮えくり返る思いをするだろう。勿論俺が、だ。そいつの人生なんて知らない。もしかしたら辛い思いをしているのかもしれないし、幸せに生きて来たのかもしれない。でも、俺の薄汚れた色眼鏡で見てもそんなのは分からないのだ。全部が全部、恨めしい。だから誰かを殺す前に自分で死ぬ。良い事だ。
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