自殺を考えている会社員T

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 俺が死ねばこの部屋も晴れて事故物件だな。でもこの世に未練なんて無い。寧ろ早く居なくなってしまいたいくらいだ。現世に魂だけを残す気なんてさらさら無い。腐った死体から染み出して床にこびりついた黒い汁の方がよっぽど鬱陶しいに違いない。さて、どこか紐を通せそうな場所は無いだろうか。死のう死のうと言っている割に随分と無計画なもんだ。だって馬鹿なんだからしょうがない。もっときちんと計画を立てて、真面目に行動していたら今死のうなんて思っていないだろう。死んだあとどこに行くかは分からないが、そのくらいは馬鹿でも分かる。 「おい、お前死ぬのか?だったら死ぬ前にワシを食ってくれんか?お前と一緒に腐りたくないぞ」 どこからか甲高い女の声のような、はたまた男の裏声のような、奇妙な声が聞こえた。死ぬ前の幻聴だろうか。走馬灯は知っているが走馬聴(そうまちょう)なんて聞いた試しが無い。それにせっかくとれた休みだ。放っておいて欲しい。 「ここだここ。下だよ、下」 声は止まない。しょうがないから言われるがままに下を向く。 「違う違う。もうちょい遠くだ。そうそう」
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