自殺を考えている会社員T

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かごの中に無造作に入った玉ねぎが目に入った。大分前に買った物らしく、てっぺんから黄緑色の芽がピョンと出ている。 「そう、ワシだ。死ぬ前にワシを食ってくれんか。腹に何か入っていようがいまいが、死んだらお前には関係ないだろう」 ただの玉ねぎだ。口がついている訳ではないが、話している。どういうことだ。 「ははは。よく分からんと言った顔をしているな」 幻聴のわりには意思を持って良く喋る。 「何でお前を食わなきゃいけないんだ。お前は俺に食われる為に生まれて来たのか?」 「別にそう言う訳じゃないがな。じゃあ何でお前はワシを買った?腐らせる為か?」 「……」 まさか玉ねぎに言い負かされる日が来るとは思わなかった。 「食って欲しいから食って欲しいと言って何が悪い。難しく考えるな。嫌なら嫌でワシは、不本意ではあるが、お前と共に腐っていくまでよ」 「玉ねぎだけ炒めて食うのか?」 玉ねぎは微動だにせずケラケラ笑い出した。 「ワシは食ってもらえれば生でも何でも良い。ただ、お前がそれじゃ寂しいと言うなら、他にも何か買ってくれば良いだろう」
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