自殺を考えている会社員T

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玉ねぎの無い口の口車に乗せられている気がする。未だに玉ねぎが本当に喋っているとは信じられないが、俺とは違う考えを持っている。それに、じゃあ最後の晩餐にコイツの為に何か作ってやろうかと思い始めている自分が居るのも事実だ。まあコイツの為と言いつつ、コイツは俺に食われる羽目になるのだが。 「料理は上手くないぞ」 とは言ったものの、何を作れば良いか思いつかない。とりあえず冷蔵庫を開けてみるが、発泡酒が数本あるだけだ。こういう刹那的な快楽に身をゆだねる物の準備だけはちゃんとしている。自分の浅はかさには笑えてくる。だから死ぬんだ。冷蔵庫の隣の棚を漁る。封を切って少し食っただけのさきイカ、サバ缶、サバ缶、ツナ缶、焼き鳥の缶詰…… 「あっ」 奥の方に新品のカレールウが隠れていた。賞味期限はとうに切れている。まあこれから死ぬんだからそんなのどうだって良い。俺の期限ももうすぐ切れる。それに簡単に作れそうだ。 「カレーでどうだ、玉ねぎ」 「お前が良いならワシはそれで良い。じゃあニンニクと根菜、その他野菜と肉も必要だな」 またあのどんよりした空の下を歩くのか。なんか悔しかったのでコイツも道連れにしてやろう。
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