自殺を考えている会社員T

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「じゃあ玉ねぎもついて来い」 「食ってくれるのならそれくらいしてやっても良い。でもワシは一人では動けん。鞄にでも入れてくれ」 「そうか」 玉ねぎをむんずと掴む。水分が抜けて中身がしなびていたのか、茶色い皮がくしゃりとひしゃげた。 「大丈夫か?」 「平気だ平気。腐るよりずっと良いわい」 よっぽど腐るのが嫌らしい。なんのプライドだろう。  スーパーで野菜を買うなんていつぶりだ。きっとこの玉ねぎを買ったのが最後に来たときだろう。じゃあせいぜい一、二ヶ月前か。最早時間感覚もハッキリしていない。土曜日だから家族連れが多い。俺は玉ねぎ連れだ。ひとまず野菜を買うか。 「なすざんす」 また声が聞こえる。どうやら他の人は気づいていない。俺だけに聞こえている。それにやけに艶のある声だ。確かに紫色だし、野菜の中では妖艶な雰囲気を持つのかもしれないが、あまり深く考えたくない。なすは丁寧にビニール袋入れられていて作った人の顔の写真まで貼ってある。俺より大事に扱ってもらえているようだ。ただ、両親の顔写真を服に貼りたいとは思わない。試しに一つとってみる。 「ちょっと、どこ触ってんのよアンタ。もっとお上品に持つざんす」
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