序章

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 微苦笑を浮かべて、自転車にまたがり腕時計を見る、あっ…約束の時間に遅れる。  あぁ…今日も何も変わらないけど、平穏が一番だな。    ・・・ 「あっはは!お兄ちゃん速いよ!」 「そう言いながらテンション上がってるのはもみじだけだからなっ」  約束の時間を失念していたために、いつもよりも倍ほどの速度で走る。  彼女との約束を遅れて怒られるのが嫌なので全力。  大体寮から歩いた場合、30分。自転車では10〜15分ほど。だが僕が全力で漕いだおかげで5分。息が少し上がっているが問題はない。  「ほら降りろ」「はーい」兄妹の会話はこれで終わり、ではなく。 「それじゃ、また明日ねー、今度は自分で起きてよ?私だって毎日行けるわけじゃないんだから」  うんざりした口調で、秋城(あきし)緋和(ひなと)は言った、 「大丈夫、今日は起きれなかったけど」 「はは、気をつけてね?」  適当に返事をして自転車を駐輪場に止め、指定の場所へと向かう。    ・・・  北校舎。そこは捜査科の専門校舎。南向きの正門から入ってさらに先、そこに捜査科の30個室を越える資料室、そのひとつ。 「遅いっ!最低でも5分前って言ったでしょ!?」  容赦無く鼓膜に叩きつけられる女子特有の高い声、幸いなのは部活とかで声出しする運動部系女子よりも低いことか。 「耳が痛くなるんだけど、それとごめん」  紙のファイルを抱えながら、彼女、リヴェラは僕に言った。 「そんなのじゃ「役立たず」って言われるわよ」  少しムッとした俺は事実を伝える。 「既に周りから言われてるよ、陰口とかそう言うの」  「それは影口か怪しいなぁ。とは思うんだけど」と付け足す緋和。リヴェラはそれを意に介した様子は無く言う、 「今日の放課後教員室行くわよ、あんたの実力を確かめたいし」  そう言って不敵に笑った彼女、 「何様でそれを言ってるんだ…僕の実力ならとっくに見たろ?」 「何様って…あたしはリヴェラ・V・有清よあんたも知ってるでしょ?」  両者呆れた声を出す。  天真爛漫、そう言える彼女とは裏腹に雨雲がやってくるのが、部屋にあるたった一つの窓から見えた。  やれやれ、平穏が訪れるのはまだ先みたいだ。
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