「遺書」谷崎トルク

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 友子と結婚式を挙げた二年後、息子が生まれた。待望の男の子で僕と友子は人生で味わった事のない喜びを感じた。君とは年賀状のやり取りしかしていなかったが、それで君が結婚していたのを知った。式は挙げなかったのか? 呼ばれなかったのを友子も気にしていた。  その後、君から年賀状が来なくなった。二、三年してそれに気づいた。ある時、ゴミ箱の中にビリビリに破られた年賀状が捨てられているのに気づいた。不審に思った僕は破れた年賀状を繋ぎ合わせた。 「……友子が、どうして?」  ある文字が見えた瞬間、全てが繋がった気がした。  僕は驚きのあまり息ができなくなっていた。  その年賀状は君からのものだった。  男の子――可愛い二歳くらいの子どもが君と一緒に写っていた。名前を見て息を呑んだ。漢字は違ったが僕と同じ名前だった。  秀和、ひでかず……。  同じ名前。同じ音。  不意に君が僕を呼ぶ声が聞こえた気がした。  あの温かく優しい声が――。  僕はその時まで、友子は君が好きで、君も友子が好きなのだと思っていた。確かに友子は君が好きだった。  けれど、君はどうだっただろう。  そして、僕はどうだっただろう。  本当にどうだったのだろう……。
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