「遺書」谷崎トルク

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 葬儀の日。答えはすぐに出た。  父の棺の前で泣き崩れた男がいた。背の高い、端正な顔立ちをした男だった。歳は取っていたが、仕事ができる男の貫禄と大人の色気があった。間違いない。あの男がZだ。佑都は周囲の人間に彼の名前と出身大学名を聞いた。そして、衝撃を受けた。心臓が止まるかと思った。  ――奈良田善行(ならたよしゆき)    男の名前だった。出身大学も父と同じだった。  Zは善の音読みの頭文字だろう。  そして、苗字は佑都の友人である英一と同じだった。  ――奈良田英一(ならたひでかず)  全てのピースがカチリと嵌るような音がした。  やはりあの文章は小説ではなく、父が最期に書きとめた手紙――遺書だったのだ。Zが「僕」に対して「秀和(ひでかず)」と名前を呼んでいるシーンが書かれていた。秀和は父の名前だった。  ――漢字は違ったが僕と同じ名前だった。  佑都は一つの核心を持って大学へ向かった。
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