「遺書」谷崎トルク

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「英一、話があるんだ」  佑都は階段テラスに英一を呼び出した。人目に付きにくい上段の角に並んで座った。 「色々、大変だったな。体調とか大丈夫なのか?」 「ああ、ありがとう。初めての事ばかりで大変だったけど、父が遺してくれたんだ。何をすればいいのか全部教えてくれた」  そう、教えてくれた。  自分が何をすればいいのか。しなければ後悔するのか。 「君のお父さんはこの大学出身?」 「そうだよ。あれ、話してなかったか? 俺は親父と同じ大学に進学したくて死ぬほど勉強したんだ。親父とはあんまり話さないけど、大学時代の話はよく聞いたよ。凄く楽しかったって。人生で一番、楽しかったって。だから、おまえも絶対に大学へは進学しろって言われた」 「そうなんだ」  佑都は小さく息をついた。自分も同じだった。父を尊敬していた佑都は一浪したが、同じ大学に進学していた。 「君のお父さんの名前は?」 「善行だよ。ぜんこうって書いて、よしゆきって読むんだ」 「そうなんだ」 「変な名前だよな。俺はえいいちって書いて、ひでかずと読む。どこに行ってもえいいちって呼ばれるから、もうそれでいいかと思うよ」 「そうかな。英一っていい名前だと思うよ」 「そうか。おまえにそう言ってもらえるとなんか嬉しいよ」 「俺さ、君に話があるんだ。凄く長い話なんだけど、聞いてもらえるかな」 「ああ、いいよ。俺、すげぇ暇だから」  佑都は覚悟を決めた。大きく一つ息を吐いた。
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