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父が遺したもの。
Zが過去に一度だけした間違った選択。
その全てが佑都の未来を照らしてくれるような気がした。
――恋は罪悪、と謳った作家は誰だったか。
恋愛はただ楽しいだけではなく、人の一生を左右するような大きな罪悪でさえありえる。
それはもう分かっている。
けれど、佑都はもう自分の気持ちに嘘はつきたくなかった。
後悔は誰の人生にもあるだろう。
間違いもそれと同じだ。
けれど、一番の罪悪は、為されなかった恋愛の欠片を心の隅に生涯持ち続ける事だ。
――今日、俺は正しい選択をする。父が見ようとしなかった未来を、そしてZが選べなかった道を選ぶ。ここからもう逃げないとそう決める。
「あのさ、俺――」
「ん? どうした?」
二人の視線が合う。
佑都は未来へ一歩踏み出すように言葉を続けた。
その瞬間、何かを応援するかのように、二人の後ろを暖かい風が吹いた。
「遺書」(了)
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