麗人の小説家

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 しかしそれよりも問題なのは、先程合ってしまった視線だった。  優し気な焦げ茶の瞳に一瞬ではあるが見つめられて、まるで火をつけられたように感じる。  頬が熱かった。色として出ていないことを願うしかない。  そして別のことにも恥じ入った。  読み終えたあとまるで先生の評価を求めるように源清先生を見やってしまったこと。  なんと子供っぽい仕草だったことか。  堂々と読み終わり、堂々と着座しなければならなかったのに。  自分の未熟さを露呈したも同然ではないか。金香の葛藤は勿論知られることなどなかっただろう。 「巴さんの文字については、あとで見よう。……校長先生」 「はい。では、今日はここまでです。皆、起立してまず源清先生にお礼を言いましょう」  そのあとは校長が仕切ってくれた。それに場を任せながら金香は思った。  確かに今、自分の書き文字について見て貰うと子供たちはほったらかしになってしまう。源清先生の提案は理にかなっていた。  あとで見てくださることに頬が熱くなってしまった。  それは小説家としての大先生に見てもらえるのだという高揚なのだと金香は自分に言い聞かせるしかなかった。  先程の焦げ茶のあたたかな眼差しはしっかり胸に焼き付いてしまったけれど。
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