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化石から復元された女子高生
〓〓〓素材提供元 ぐったりにゃんこ様
どこまで大渓谷が広がっている。この呼び名も戦後70001年で俗称で呼ばれたのがそのまま一般民衆に浸透したものだ。
≪戦時中≫の以前、《戦前》《ラブアンドピース》の時代に世界一の経済大国にあったとされる土地の名前らしい。
しかし、戦後の現代において「国」という概念はない。
この吊り橋を渡った先には集落がある。吊り橋は戦車輸送車両が渡るには充分な強度である。
車窓もあるが戦車輸送車両は全体各所に砲台、銃座がついている。外敵から身を守るために武装重装で固められている。
集落の入り口にボディーアーマーと短機関銃で武装した契約軍人の男性が門番をやっている。契約軍人の男性は、戦車輸送車両から降りてきた乗客に対して検問を行っている。乗客たちは1人ずつ労働者資格を提示する。この世界において労働者資格は市民権を意味する。
〓〓素材提供元 HITIME様
「契約社員ですね。訪問目的は?」
「開拓事業です……」
「お通りください。正門をくぐったすぐそこに広場あります。町村課の係長から説明がありますので」
契約社員でこの村単位の集落にやってきた乗客たちは検問で入村の許可をもらうとそそくさと正門入り口を通ってすぐ先にある広場へと一列ずつ縦に並んでいく。
契約軍人の男性は、最後に降りてきた乗客から労働者資格を受け取り拝見する。その労働者資格のカードは銀メッキだった。輝いている。それに契約軍人の男は驚いた。
「えええええ!!! これは!!!!」
契約軍人の男のとってその銀メッキの労働者資格が意味するのは、目の前のブリーツスカートをはき、セーラー服を纏う青いロングヘアーの少女の身分の高さであった。
「もう遅い!!! 吾輩、もう行くでありますからね(# ゚Д゚)!!」
「教育事業部通信制在籍の特待生――女子高生のJKさんですね……。どうぞ……」
「遅すぎるよ!! マジ、ムカツク(# ゚Д゚)!!! 行くでありますからね」
プンスカと女性高生JKは、契約軍人の男から銀メッキの労働者資格を返却してもらい、正門をくぐる。
しかし女子高生JKは、他の契約社員のように列には並ばない。
学生カバンを背負って女子高生は、口笛を吹きながら街道を歩く。広場ではスーツ姿の肥満体の男性が台座に佇んで、この集落へと入村してきた契約社員たちに説明する。
「労働者諸君、町村課のだ第3373村単位集落へようこそ。私はここの現場監督を一任されている係長です。≪複合企業政権≫は、非正規でも大渓谷開拓を志し、来訪してくださったことは弊社として大歓迎です。少しでも早く戦後を脱して《戦前》《ラブアンドピース》のような平和な世の中を創っていきましょう」
かつてこの世界は居住環境が崩壊するくらいの大戦乱――≪戦時中≫を迎えた。Android(人工知能補助機能付きサイボーグ)の軍事国家≪第03帝国≫と人類の有志連合――多国籍軍が世界の覇権をかけた最終戦争を交えた。
戦後になってからは既にこの世界は、人類の住む場所ではなくなっていた。両軍は壊滅した。人類の有志連合――多国籍軍の残党が会社を起業した。それが≪複合企業政権≫。世界全てを「社用地」とした。人々は、富裕層――「社員」と貧困層――「契約社員」と分かれて7001年かけてなんとか社会を復興させてきた。
しかしこの世界には大渓谷が広がり、砂漠もある。荒れ地を開拓するのは早々簡単にはいかないのだ。
「巨悪なる≪第03帝国≫が滅亡したとはいえ、世界は未だに不安と恐怖に包まれております。労働者諸君。君たちが少しでも開拓地を広げれば、本社城下町より表彰されて町単位へと昇格できるでしょう!! 弊社は皆さんに期待します!!」
「おおおおおおおお!!!!」
新人の契約社員は歓声で答える。町単位へと昇格すれば、この村で暮らす非正規労働者の何割かが正社員登用の可能性が出てくるからだ。
女子高生JKは観光案内所という建物を訪れてそこの契約社員の原住民にコンビニの場所を訊く。
「す、すいませんが……ここは開拓地が狭く尚且つ総人口も1万人も満たしません……。弊社にとって回収できる収益が乏しいため……コンビニエンストアの設置は認められていません……」
「信じられない!! じゃあ、どこで雑誌とかお弁当とか印刷とかできないでありますよ!!! 吾輩、コンビニ依存症なんでありますよ!!!」
「そ、それは≪複合企業政権≫の子会社である電話事業部が提供している携帯通話通信端末――スマホでお調べしていただければ? 第3373村単位集落とはいえ、無線ローカルエリアネットワークの電波許容範囲にありますので……」
「え? 吾輩、そんなものは持ってないでありますよ♪ ちなに通話だけできるガラケーという携帯電話もないであります♪」
「ええええええええええええ!!!!」
観光案内の契約社員の女性は驚いた。
「ど、どうしましょ……。仕方ないですね。それでは……この案内所に有線ローカルエリアネットワークの情報端末がありますのでそれでこの集落の情報をお調べください……」
女子高生JKが契約社員の女性にパソコンを貸してもらおうとした時だった。
外で悲鳴が聞こえてきた。
女子高生が外に出る。
先ほど、通り過ぎた広場から原住民や新入りの契約社員が逃げてきた。
女子高生JKは、広場へと向かう。観光案内所の女性契約社員が制止しようとするが全く無視する。
広場には、軽装の甲冑を着た異形がたくさんいた。その異形たちに殺されたのか検問をしていた契約軍人の男性が倒れていた。
〓〓素材提供元 silhouette-ac様
《戦前》《ラブアンドピース》より遥か古代、「戦国時代」と呼ばれたある島国に「足軽」と呼ばれた。軽い装備の農民上がりの兵隊がいた。
腹当て腹当、漆を塗って、兜(かぶと)の代用とした陣笠で装備した全身、獣の体毛だらけの獣人が数十体いる。奴らは太刀、槍、斧、銃器を持っていた。
「うぎゃん!!! うぎゃん!!! うぎゃん!!! うぎゃん!!!」
「≪第03帝国≫が滅亡を引き換えに暴走させた最終兵器。そいつが帝国臣民以外の人間を殲滅するように大量増産した帝国獣でありますな!!!」
この世界を完全に荒廃させたのが≪第03帝国≫の決戦兵器であった。国という国を滅ぼし、人類という社会を粉々に粉砕した。戦後70001年が経過しても未だに人類が生活圏を取り戻していないのは、未だに暴走を続ける最終兵器のせいである。最終兵器の人工知能は、帝国臣民以外の存在は認めず、必ず殲滅するために子機を大量に生み出した。それが帝国獣。そして広場の人間たちを殺してまわっているのは最下位の帝国獣――《足軽》《コボルト》である。
この世界にいるあらゆる動物や生物にナノマシンを埋め込んで強制的に人型の生物兵器へと大幅に改造されたものだ。顔が犬。顔が猫。顔が猿。顔が馬。顔が牛。顔が鳥。顔が豚。様々だ。
「うぎゃう!! うぎゃうがうがうぎゃうぎゃ(我らは親機陛下の勅使なり!!!! 神聖なる帝国の土地に集落を築こうなどとは愚かせんばん!!! 粛清してくれるわ!!!)」
「係長が新入りたちに説明している隙間を狙って攻めてきたでありますな!!!」
女子高生JKは歯を噛みしめる。人類がようやく復興にのりだしているというに亡国の亡霊兵器どもは、人類の復興を阻止しようとするからだ。
「吾輩が駆除してやるであります!!! ポケベル――出動!!!」
JKは片手に無線数値入力装置、もう片方に画面のある小型無線受信機を携行し出す。
「インクリメント!!! 2232 1131 4432!!!」
無線数値入力装置に何やら番号や符号を打ち込む。打ち込んだ数字の文字列が小型無線受信機へと送られる。
「うぎゃあああ!!!(帝国の敵め!!! 死ねぇえええ!!!)」
馬が人型化した《足軽》《コボルト》が手斧を振り上げて迫りくる。JKが持つ小型無線受信機がいきなり鋭くて長すぎる剣身を生やす。小型無線受信機の機器は柄となり、それは長剣となったのだ。JKはそれで馬の《足軽》《コボルト》の手斧を受け止める。激しい剣戟音が鳴った。
「インクリメント8634――文字列翻訳――高周波切断!!!」
その長剣は突発的に高振動する。それは受けた敵の手斧を易々と軌り砕く。そして馬の《足軽》《コボルト》の頭部を刎ね飛ばした。
「うぎゃ!!! うぎゃうぎゃ!!(帝国自衛隊同志がやられた!!!)」
「吾輩のポケベルは震える魔剣!!! 数値で編み出す斬撃は貴様を屠るには充分であります!!!」
「うぎゃ!!! うぎゃうがうがうぎゃああ!!!(名を名乗れ!!!)」
人間には到底理解できない帝国獣の言語。咆哮にしか聞こえない。しかし、JKの持つポケベルには彼らの翻訳機能がついていた。
「《戦前》《ラブアンドピース》。日本という島国で生きていたとされる女学生――「女子高生」!! 吾輩はその化石から復元された生物兵器であります!!! 略してジェェエケェエエエ!!!」
かつてこの世界が「地球」と呼ばれた時代、日本という国には女子高生という若さを満喫している部族が存在したらしい。3年間という寿命がなく、3年間を過ぎると女子高生ではなくなる。日本があったとされる島の地中でセーラー服を着た少女の化石が発見された。その化石の遺伝子から復元されたのが彼女、女子高生JKである。
同胞が殺されたので他の《足軽》《コボルト》が肉迫してくる。牛の《足軽》《コボルト》が鉄槌を振り回してくる。女子高生はポケベルの長剣機能で受ける。
「うぎょう!! うぎょう!! うぎょぉおお!!(戦友をよくも!! 仇討ちだぁああ!!!)」
「元々野生動物や家畜にナノマシンを打ち込んで人型化させられたのに。戦友って……おかしいでありますな。インクリメント!!! 6055!! 6055!!」
無線数値入力装置にコードを打ち込んで小型無線受信機に送信する。ポケベルは長剣を収納し、今度は双頭の線路が生えてくる。女子高生は足元にある小石をポケベルの線路にセットする。
「インクリメント773――文字列翻訳――電磁加速原理砲」
ポケベルの線路に電磁加速が発生する。それで射出された小石は超高速により、牛の《足軽》《コボルト》を上半身ごと撃砕した。
豚の《足軽》《コボルト》と猫の《足軽》《コボルト》が左右から挟撃を噛ましてきた。女子高生は再度、小石を拾ってポケベルの線路にセットする。そして超高速で放つ。槍を突き出してきた豚の《足軽》《コボルト》は、頭部を吹き飛ばされる。猫の《足軽》《コボルト》が鉞で薙いできた。女子高生は側転しながら回避し、蹴りを猫の《足軽》《コボルト》に頭部にかます。ポケベルの長剣機能へと切り替えて高振動で猫の《足軽》《コボルト》を一刀両断する。
「うぎゃん!!! うぎゃん!! ぎゃんぎゃん!!(強い!!! 貴様!!!ただの女生徒ではいな!!!」
犬の《足軽》《コボルト》は太刀で身構えながら好機を窺う。ポケベルの翻訳機能はそれすらも解読していた。
「だから、吾輩はただの女子高生でありますよ。ま……普通とえいば、普通でないでありますが……。青春を只今絶賛満喫中でありますな」
「お嬢さん!! 大丈夫ですか!!」
犬の《足軽》《コボルト》は背後から契約軍人が接近してきたことに気づいていなかった。契約軍人の大剣の襲撃が犬の《足軽》《コボルト》の生涯を奪う。切り裂かれたその帝国獣で最後だった。騒動を受けて集落の深部にある詰め所から契約軍人たちが駆けつけてきたのだ。
「帝国獣どもめ……。新入りの契約社員たちへの説明の隙を狙って侵入してくるとは想定していませんでした。怖かったでしょう。駆けつけるのが遅くて申し訳ありません」
「いえ、吾輩こそ、勝手に戦って申し訳ないでありますよ。人が襲われているな状況だったんでついつい」
ポケベル――小型無線受信機と無線数値入力装置を学生カバンへと入れて女子高生は謝った。
「係長殿がお嬢さんに御用があるそうです。同僚が車を出すので商工会議所まで送ります」
契約軍人は後輩の契約軍人に女子高生を送迎するように命じる。女子高生は後輩の契約軍人が運転するジープで集落の奥地へと向かう。
奥地に巨大な建物があった。この集落の大型総合商業施設にして地方自治のお役所相当の業務を担っている。
商工会議所の内部にある立体駐車場へと車は入り、駐車する。そこから女子高生は後輩の契約軍人に案内されて係長のところへと目指す。
商工会議所の上層の階に係長の執務室へと入る。そこに先ほど新入りの契約社員たちにこの村単位の集落について説明していた者だ。
「初めまして、JKさん。村内に侵入してきた帝国獣を駆除していただき、集落を代表して感謝します」
頭を下げてきたので女子高生はそんなに丁寧しなくてもいいと止める。
「そういえば、検問担当の契約軍人から報告を受けました。JKさんは、かつて日本と呼ばれた島で発掘されたセーラー服を着たままの化石から復元されたんですな。たしか去年でしたか?」
1年前。
日本人が滅び無人となった日本列島に開拓を目的としてやってきた契約社員が現地でセーラー服を着た骸骨の化石を発掘したのだ。化石は≪複合企業政権≫の手に渡った。
「初めまして吾輩は軍閥の元締め、軍師直属部隊ダブルエスの内政情報調査室務官のJKだ。コードネーム「女子高生」であります!!」
≪複合企業政権≫には正規軍は存在しない。万が一軍事力を手にしてクーデターを起こされてはならないからだ。多国籍軍の残党が起業して7001年、今のやや安定した治世を築いた。しかし先軍思想を唱える者たちが続出した。これを防ぐために傭兵たちで構成される子会社――軍閥を組織した。管理は企業でも最高幹部の地位――軍師が監督している。全国各地の集落の治安はきちんと管理運営されているかも調査を兼ねて内政情報調査室務官たちが世界を巡回しているのだ。
「内部監査ですかな?」
「先輩方はマジメにそれをしてるでありますが、吾輩は悠々自適にやっているんで厳正にしないであります。吾輩は人間であるか気になっているでありますな? 吾輩はその遺骸から復元されたクローン人間であります♪」
「何はともあれ、JK様のお陰で被害は少なくてすみました。お礼にこの商工会議所のフードコートで好きな品物を1品だけ無料で御馳走しましょう」
「やったであります!! ならばタコ焼きがたっぷり入ったタコ焼きオムレツが食べたいであります!!!」
JKの謎の大好物に係長は反応に困ってしまう。オムレツの中身にタコ焼きがたくさん入ったやつらしい。オムソバのようなものなのかと。
係長は手持ちの財布から商工会議所内の各テナントで使用できる商品券を取り出す。それはレストランや専門料理店では最高級の料理でも無料で食えるようだ。
「オムタコ焼きってのはございませんが、調理するように私が要請しておきますね」
「とてつもなく感謝であります♪ それでは駆け足でいくであります♪」
商品券を受け取った女子高生はそそくさと執務室から退室していく。商工会議所はショッピングモール&ホテル&役所を兼用している。女子高生が向かったのはショッピングモールのフロアである。そこのフードコートに移動し、係長から要請されたファミレスへと入店する。そこの店員にいきさつを話すと、係長から要請を受けたと知り、テーブルへと案内される。
既に女子高生オーダーのオリジナルメニューが用意されていた。オムレツの中にタコ焼きを入れたものである。〓〓素材提供元:photo-ac.com
「吾輩のオムタコ焼き♪♪ オムタコ焼き♪♪」
フォークとナイフもしくはお箸を使うと思いきや手掴みでがっつく。咀嚼、噛みしめる。頬張る。口周りについた卵の食べかす、タコ焼きのソースを舌で舐めとる。
「何故だか分からないでありますがオムレツの中に入ったタコ焼きが無性に食べたくなるであります♪ 美味かな、美味かな♪」
満腹満願の女子高生は、頬に食べ残しのソースと海苔をつけたまま、帰路につく。この集落での調査は終えた。村単位とはいえ、契約軍人はそれなりにいる。開拓は順調に成功するだろう。
女子高生は商工会議所を出て徒歩で正門を目指す。あの戦車輸送車両が渡れる吊り橋があるところに。
〓〓フリー素材提供元 ぱりゅーんさん
戦車輸送車両は次の集落へと向かうために乗客を募っていた。他の集落で一攫千金を志す契約社員たちが契約軍人の乗員と乗車手続きを行っている。
「70Coinになります。あと、係長からの移籍推薦状はありますか? それがないとお金があっても乗車させることはできません」
契約社員が働き口を変更するのは簡単にできることではない。集落を管轄する上長からどれだけの成果を出したか評価を示す手紙が必要なのだ。それでやっと働き口を変えれるのだ。
片道切符の運賃と移籍推薦状の所持確認を終えて契約社員たちは車内へと乗り込んでいく。
女子高生も契約軍人の乗員と乗車手続きを交わす。銀メッキの労働者資格を掲げると、契約軍人の軍人は即座に応じた。
「本社城下町の正社員方ですね。どうぞ、御乗車ください」
女子高生が乗車すると、受付時間が終了したのか戦車輸送車両は発車し始めた。
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