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フリークスエボリューション
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戦車輸送車両は走行する。この世界において集落間を往来するのに必要不可欠の交通ライフラインである。車内にて車窓から見える景色を眺めながら女子高生JKは黄昏る。
「これが地球と呼ばれた世界。≪戦時中≫までは大陸や島も原型を辿っていたけどでありますが……。《第03帝国》《サードパーティ》の最終兵器によって様変わりされたんでありますな……」
女子高生はその頃まで生きていたのだ。この世界では小中高という概念がないのだ。子会社――教育事業部1等生~~16等生という学位がある。「女子高生」という言葉自体が戦後7001年の流行語大賞になっている。実は有名人。
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「ねぇ? あなた、女子高生さん? だって、珍しい制服だもんね? スカートも? ブリーツスカートっていうんでしょ? それ?」
鉄球と鎖で繋がれた長柄で武装している契約軍人だ。魔女をかたどったウィッチハットをかぶっている。
「そうであります!! 吾輩に何のようですありますか?」
「やっぱそうだ♪ 私ね。さっきの村単位の集落で契約軍人をしていたんだよ♪ あの時、隙を狙って侵入してきた帝国獣でも足軽を数体討伐したから移籍紹介状を係長に発行してもらったの♪」
契約軍人の少女はあの村で生まれてずっと、外へ出ず、両親が契約軍人なので同じ稼業で給与を稼いでいるらしい。
「村にね。教育事業部の校舎があってそこで義務教育を終えたから10等生からは個人の自由で進学するか決めていいから他の集落に行くとしたの♪ 都市単位だよ♪ 社用地南東大陸で3番目の都市だよ♪」
この世界において数万、数十万、数百万が住むことができる都市単位は、文明レベルがかなり高い。合計で6都市あるのだ。
「そこで活躍したら私は軍閥の正規兵社員になれるかな? そしてゆくゆくは政治将校社員といわれる軍師直属部隊ダブルエスの内政情報調査室務官になるんだぁ♪」
「飛躍的でありますな……。なんか罪悪感を感じるでありますな……」
正規兵社員に就ければ、退職金を会社より支給される。政治将校社員になれば、定年後の天下りも確約されている。化石から復元された女子高生は、彼ら非正規である契約軍人の血に馴染んだ努力を度外視して政治将校社員になれたのだ。しかも軍師直属という最上級一歩手前の階級である。
「申し訳ないでありますが、吾輩は貴官がいうような人事権はないであります(´;ω;`)」
「え~~~~~。嘘ん。政治将校社員しかも内政情報調査室務官でしょ? 軍師閣下に頼めないの?」
この少女の契約軍人は、それ目当てで話しかけてきたのだ。事情を訊いてみたら、係長周辺から契約軍人の時間帯指揮官の耳へと届き、この少女に情報が届いたようだ。女子高生は溜息をつく。
「1個の集落に定住させてもらえるからいいじゃないでありますか? 吾輩なんて本社城下町の市民権すら貰えてないんだから羨ましいでありますよ!!」
「え? そうなの?」
生後1年間。契約軍人⇒正規兵社員⇒政治将校社員⇒内政情報調査室務官と飛び級すぎる飛び級をもらったが、条件として自分と同じ小学生、中学生、大学生の化石を探せと厳命されたのだ。それが成功したら報酬として本社城下町へ定住させてくれるらしい。
「大変だね……。人事権のない内政情報調査室務官なんて珍しいね♪ 有名無実化だね♪ いいや♪ 旅は道ずれ♪ 世は情け♪ 途中まで付き添うよ♪」
「ありがとう♪ 吾輩、本社城下町のある社用地北西大陸からいきなりさ、社用地南東大陸に送り込まれてね♪ それまで睡眠薬で眠らされて気がついたらあその村だったでありますよ♪」
「変なの~~♪」
女子高生は久々の女子トークを楽しんでいた。その時だった。突如、戦車輸送車両は停車する。
目の前に動物の群れがあった。
「動物の群れ? まぁこの世界は戦前みたいに人様が全てを文明化していたけど、今は野生動物たちの楽園だよね♪」
女子高生は違和感を感じていた。例えば野生の馬の群れ、羊の群れ、牛の群れならば理解できる。動物園なのかというくらい。様々な動物が1個の群れを成しているのだ。しかもずっとこちらを睨んでいる。
契約軍人の運転手は即座に長年の勘で車内アナウンスで説明する。
「最終兵器の子機、帝国獣だぁああああ!!!」
犬。猫。牛。馬。豚。鶏。ダチョウなどなど。様々いる。彼らは突然、肉と体毛だらけの不定形のスライムみたいに変形する。人型化している。しかも体毛の一部が腹当て腹当、漆を塗って、兜(かぶと)の代用とした陣笠で装備に変異する。さらに体毛の一部が剣や斧などの刃物に変形する。弓矢もだ。
「うぎゃん!!! うぎゃうぎゃうぎゃあああ(帝国の仇敵!!! 帝国の仇敵!!!多国籍軍の残党!!!)」
彼らは元々野生動物だった。それに《第03帝国》《サードパーティ》の最終兵器が人工ウィルスで感染させて人型化させたのだ。そして感情を植え付けるために《第03帝国》《サードパーティ》の将兵の人格や記憶を貯蔵しているデータベースから将兵の個人情報を検索し、人型化した野生動物の脳に上書きする。
彼らは≪戦時中≫に殉職した帝国軍人の再現であり、戦闘中と思い込んでいる。足軽、《第03帝国》《サードパーティ》の歩兵部隊である。
「非戦闘員の契約社員は車内で待機!!! 契約軍人どもは武器を手にとり、奴らを始末しろ!!!」
「了解!!!」
契約軍人たちは自慢の得物で武装して下車する。それは少女の契約軍人と女子高生JKもだ。
女子高生は片手に無線数値入力装置、もう片方に画面のある小型無線受信機を携行し出す。
総勢60体。足軽たちの気分や記憶は≪戦時中≫のまま、血気盛んである。自分たちが複製された異形とは理解していない。
契約軍人の少女は鉄球と鎖で繋がれた長柄を振るう。射出された鉄球が猫の足軽の頬に直撃する。日本刀を振るう寸前で殉職歴の通り殉職した。
「ひぎょん!!!(戦友!!! よくもぉおおお!!!)」
カバの足軽が両手の手斧で襲撃してきた。それなりの巨体だった。しかしその2本の斬撃を受け止めた者がいた。
「この子は殺せないよ!!! 行き掛けの友人!!! みんなを奪ったお前らが憎いであります!!!」
女子高生は彼ら帝国獣に対して何故か憎悪と殺意が湧いてしまうのだ。生前の記憶がないはずなのに潜在意識なのか本能的なのかベースとなった化石の遺骸に秘密があるのだろう。
無線数値入力装置に番号を打ち込む。
「インクリメント8634――文字列翻訳――高周波切断!!!」
受信したポケベルから長剣の刀身が生えてくる。
高振動する電動の剣技がカバの足軽を真っ二つ切り裂く。
「マジ、死ねってかんじであります!!!」
次の帝国獣が迫りくる。長槍を持ったダチョウの足軽とボーガンを持った山羊の足軽だ。山羊の足軽が矢を放つ。
契約軍人の少女は鉄球と鎖で繋がれた長柄でそれを叩き落す。尚且つ鎖に弄ばれる鉄球を山羊の足軽へと投擲する。陣笠ごと頭部を叩き潰す。
「うんめぇえええええええ!!!!(ジーク統合幕僚長閣下!!!)」
「ぐわぁああああ!!!(死ねぇえええ!! AI補助付属サイボーグの敵ぃいいい!!!)」
ダチョウの足軽は長槍で少女目掛けて刺突してきた。女子高生はそこら辺りの石ころを拾う。
長剣機能を収納し、無線数値入力装置にコードを打ち込む。そしてポケベルに送信する。受信したポケベルは2本の路線を出す。
「インクリメント773――文字列翻訳――電磁加速原理砲」
そこに石ころをセットし、帝国獣――再現された帝国歩兵部隊に対して射線軸を向ける。
電磁加速で射出された石ころは強烈な砲丸となってダチョウの足軽を見事粉砕した。
「ちゅちゅぎゅむぅううううう!!!(撃てぇええええ!!!!)」
スズメの足軽たちが背後から一斉に弓矢で遠距離攻撃をしかけてきた。
放たれた矢の雨が少女と女子高生に迫りくる。
女子高生は即応に関して手慣れている。無線数値入力装置に高周波切断の番号を打ち込んだ。
長剣機能発動。さらに女子高生は何らかの番号を打ち込む。
「インクリメント626。音感反射神経!!!」
自分の周囲2メートル以内に入った飛翔体のみを補足する。捕捉圏内に入った矢を矢継ぎ早に叩き切り落とす。
「ありがとう!!! その間に私が始末するね!!」
契約軍人の少女は鉄球と鎖で繋がれた長柄でスズメの弓兵部隊へと急接近する。放たれる鉄球。その連打が次々とスズメの足軽の首の骨だけを的確に狙い撃つ。首が真横に傾き、スズメの足軽たちは絶命した。
「的確な判断♪ 感謝するであります♪」
「≪戦前≫の古代人って凄いね♪ そりゃ~。こいつらと対等に戦えるわけだぁ♪」
「ん~~~。それは違うでありますよ……。多分、それは吾輩だけでありますな……」
この時、既に他の帝国獣は契約軍人たちによって殲滅されていた――――いや、1体生存している。少女と同じ系統の鉄球と鎖で繋いだ武器を持っている。しかしそいつは両端が鉄球だ。顔的に日本猿の足軽だった。そいつによって2名の契約軍人が撲殺されていた。
殺意てんこもりの憎悪の形相。身構えている。
「うぎゅう!!! うぎゅうぎゅ!!!(多国籍軍め!!! わが同胞をここまで仕留めおって!!!)」
日本猿の足軽に異変が生じる。周囲を契約軍人によって包囲されて逃げ場はない。
「観念しな!!! 獣人野郎!!! 地獄へ帰りやがれ!!! ゾンビ野郎!!!」
1人の契約軍人が突撃銃で連射しながら近寄る。勿論、包囲している同僚が被弾しないように。
日本猿の足軽の腹当てと陣笠が変形していく。そして日本猿の足軽の身体つきも段々人間らしくなっていく。変異しながら飛び跳ねて契約軍人の突撃銃による銃撃を回避していく。
「くそう!!! 何で着弾しないんだ!!!」
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「本官は、帝国自衛隊二尉だぁああああ!!!!」
獣のような唸り声がいつしか完璧な人語に変換されていた。
鉄球を投げてくる。その鉄球は突撃銃の契約軍人の上半身を叩き潰す。
「この帝国獣!! 最適化しやがった。下士侍だ!!」
「これより本官は、同胞が待つ前線基地へと帰投する!! 祖国に仇名す村を滅ぼすために反逆の準備を進めようぞ!!! さらば!!!」
帝国自衛隊二尉と名乗る者は全速力で戦場を離脱した。
「最適化した子機は、親機からある程度の権限が付与されるぞ!!! 村単位の集落なんて簡単に滅ぼすぞ!!! 1個中隊の軍勢を形成する!!! 階級が上の帝国獣が指揮したら、奴らの練度は上昇するぞ!!」
「都市単位に連絡して奴らの根城らしきものを調査してもらおう。そこへ俺たちが急行して滅ぼすんだ!!」
この世界において大半の帝国獣は足軽である。人格を再現されているからと言って本来の将兵の強さを誠実に再現できているわけではない。紛い物すぎる紛い物。劣化品である。しかし、戦闘の最中で実戦経験を積んでいくとベースとなった記憶が忠実に再現されていく。それが最適化である。日本猿の帝国獣は仕官に出世したことがあるらしい。人語まで復活したらさらに強くなったということである。
最適化した帝国獣は毎年の台風や大雨などの自然災害のように村単位の集落を余裕で滅ぼすのだ。
それを目撃した軍閥は、最優先で片付けなくてはならない。
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