第一章

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「慶には相談してないんだな?」 確認するようにもう一度聞かれた土方の言葉に、小さく首を横に振った。 「慶には……まだ相談してへん」 俺がそういうと、土方は少しだけ不思議そうな顔をする。 「何でだ? 一番相談しそうなもんなのにな」 「言っても心配されるだけやし、とりあえず、バイト決まったら言うわ」 俺の言葉に、土方は一つ吐息をつくと、話を続けた。 「で。……バイト、土日とか入れんのか?」 その言葉に俺は頷く。 「一旦、部活は休部届出してるから」 俺の言葉に一瞬土方が軽く息を呑む。 「そうか、結構マジなんだな、わかった、兄貴には何とか言っておくから、近いうちにシフトの相談させてもらうわ」 次の瞬間、カランとドアベルの音がする。 「すみません、遅くなりました」 そう言って真面目そうな顔をした、同世代の男子が店にやってくる。 「ああ。着替えて、店出てくれ。兄貴、ちょっと用事があって出てんだ。ホントは俺らだけだとまずいからな。一応、いつも通り、年齢については適当によろしく」 こそっと少し小柄で線の細い印象の男に耳元で囁くと、彼は慣れているのか、何も聞き返さずににっこり笑って、俺の方を見ると律儀の頭を下げて、そのまま部屋に消えていった。 「ああ、アイツもバイトな。また藍谷がバイト入るようになれば紹介するわ。別の学校だけど、アイツも同い年」 そう言うと土方は肩をすくめた。 「本当は一応ここ、6時以降は酒出すから、未成年ばっかりだとヤバいんだけど、結構あるんだよな。そう言うこと……」 土方はそう言った途端、ドアベルが鳴り、客が一人入ってくる。 「ああ、こんばんは。今日はおひとりですか?」 慣れた様子で、入ってきた男性客の相手を始めた。 それをきっかけに、どうやら土方の兄貴もまだ帰ってこないようだから、俺はいったん店を出ることにする。 「じゃあ、悪いんやけど、お兄さんに宜しく伝えておいてくれへん?」 カウンターに戻ってきた土方に向かって言うと、彼は軽く手を挙げて、そのまま背中側にあるお酒のボトルを手に取る。 それをチラリと横目で見て、室内の照明を夜用にぐっと落とした、ちょうどカフェからバーに切り替わった店内を一瞬、ぐるりと見渡した。 なんだか酷く大人っぽく見える土方を最後に確認して、自分の決意を確認するように、俺は小さく一つ頷いて、店を出たのだった。
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