62人が本棚に入れています
本棚に追加
※10pに朔羽ゆき様の素敵な挿絵が入りました。よろしければ、そちらのページも確認していただければ♡
side K
「そうなんだよ、こっち戻ってきてからさ、街歩くと、しょっちゅうガン飛ばされて喧嘩売られて」
困っている話なのに、全然困ってなさそうに陽気にしゃべりながら、鷹塔が機嫌よさそうに食堂の飯を食う。何故か座っているのは俺の向かいだ。
部活上がりから帰る方向が一緒だったせいで、なんとなく帰宅後の夕食の席も、鷹塔が俺の向かいに座っている。
アキがいたら嫌な顔をするのかな、と少し思わないでもないけれど、話してみると、意外と鷹塔の奴は気さくないい奴だった。
「いやさ~、俺、元々目がキツイらしくてさ、視力も最近悪くなったから余計に目つきもめっちゃ悪いみたいで、結構誤解されるんだよな~」
俺は鷹塔の話に頷きながら、食堂の中を見渡す。
「……アキ、まだ帰ってきてないのかな」
小声でポツリとつぶやいたけれど、誰からも返事は帰ってこない。
その瞬間、携帯が震えて、慌ててそれを見ると。
「帰る時間、少し遅くなる」
とだけ書かれたアキからのメールだった。
「アキ、遅くなるってメール来たんだけど」
ちょうどお茶を入れに来た食堂のおばちゃんに告げると、おばちゃんがお茶を入れてくれながら頷いた。
「ああ、2年の藍谷くんね。聞いてるよ。戻りが少し遅くなるから、夕食を取っておいてくれって連絡があったみたい」
そう言われてそう言えば、今日帰りがけに図書館に寄るって言ってたっけ。
アキの事だから、つい集中しているうちに時間が過ぎたのかな、なんてちょっとほっとする。
「……一之瀬、藍谷と仲いいんだな」
ぽつりと、鷹塔が俺に聞いてくる。
「ああ、うん。同室だしね。て、鷹塔って最初逢った時に、思いっきりアキにガン飛ばしてたじゃんか」
うっかり愛想がいいから、うっかりいい奴展開になってたけど、そうだよ、あの時の事を思い出せば、ちょっと納得いかないよね。俺がそう言うと、鷹塔は困ったように頭をぐしゃりと掻き回す。
「悪かったって。あんときはサイコーに腹の居所が悪くてさ。そもそも、転校もだけど、勝手に寮生活は決められてるし、親父には、絶対に学年トップ取れ、それで東大に入れってめちゃくちゃプレッシャー掛けられててさ。でもって彼女とは別れる羽目になるし」
だらしなく頬杖をついたまま、そっぽを向いて呟く。家のしつけが厳しいのか、普段は所作が綺麗だから、わざとやっているんだろうっていうのはわかる。わかりやすく言えばふてくされているって事だろう。
「で、悪いけど勉強なんて、別にやらなくてもできるからさ。余裕だろうって思ったら、妙に出来のいい奴がいるって聞かされて……。俺、本気で努力嫌いなんだよ。勉強なんてしねーで高校生活送りたいの。誰かと比較されんのもまっぴらごめんなの。そのポリシーがいきなり、アイツの存在で予定変更させられそうでさ」
一気に言うとこちらに向き直り首をかしげて尋ねる。
「……そんでもって、藍谷ってホントに頭イイノ?」
ちらりと俺を上目使いにみる視線は、妙に人懐っこくて、本気で嫌いになりにくい。とはいえ、アキに対してとったあの態度は納得しがたいし。
「……今度ちゃんと理由を言って、アキに謝れよ。ああ見えて結構繊細だからな、アイツ」
俺の言葉に、鷹塔はうんうんと愛想良く頷く。
「でもって、アキの成績? まあ、確かに成績はいいよね。ウチの学校始まって以来の点数で入試突破したらしいし。しかも結構真面目にいつも勉強しているからな。……ある意味死角ナシじゃね?」
「ふーん……」
俺の言葉に、鷹塔は眉を寄せて瞳を細め、あんまり面白くなさそうな顔をした。それからふと視線を上げる。
最初のコメントを投稿しよう!