第一章

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入るとキッチンの横に小さなドアがあって、そちらの部屋に土方さんのお兄さんは入っていく。 後を追って入ると、そこには、ロッカーとシンプルなソファーセットとソファーテーブルが一つ置かれていた。そこに座るように言われて、俺が腰掛けると土方のお兄さんは、向かい合ってソファーに座る。 「えっと、藍谷くんだったよね。うちで働きたいってトシから聞いたんだけど」 彼の言葉に俺は一つ頷いた。 「……一応、家の状況とかもトシから聞いたし、君の学校での様子や学業成績についても聞かせてもらってる」 じっと彼は俺の顔をのぞき込んで、真正面からじっと俺の瞳を見つめた。 「でもって、バイトしたい気持ちは変わってないんだよね」 「はい、そうです」 ぺこりと頭を下げると、土方さんのお兄さんはにこりと柔らかい笑みを浮かべる。 「うん。了解。……こちらこそよろしくな。ああ、俺の事は、ヨシユキでいいよ。土方が二人もいるとややこしいだろう?」 「……はい、よろしくお願いします」 もう一度頭を下げると、くすっと笑って、そのままソファーから立ち上がり、 一番奥のロッカーをカチャリと開ける。 「じゃあ、ここに制服が入っているから。今日はこの後暇? だったら、一時間ぐらい様子見兼ねて、シフトに入ってみたらいいよ。今後のシフトの件とか、仕事の内容についても簡単に教えるし。ちょうどトシもいるしね」 ロッカーの中から、ブラックパンツと、シャツ、ベスト、蝶ネクタイの制服を一揃えを出して、俺の手に押し付けるようにする。 「はい、わかりました」 「あ、その蝶ネクタイね、一応制服だから。トシは死んでも付けねぇってわがまま言っているけど、まあ、確かにアイツにゃ似合わねーと思うけどな。藍谷君は似合いそうだし、ぜひつけてやってよ。そんでもって、女子の常連の一人でも増やしてくれたら、こっちとしては藍谷様々だけどな」 別に俺の趣味じゃねーけど、結構男前が増えてくれて店としてはありがたいね~。と軽口を叩くと、ヨシユキさんは店に戻っていった。 なんとなくだけど、あの軽口も、俺の緊張をほぐすためなのかもと、ほんの少しヨシユキさんに対して、信頼感みたいなものを感じたのは自分でも少し意外だったけれど、 きっと自分に兄がいたら、こんな感じだったんだろうかと思いながら、俺は制服に手を伸ばす。 サイズは思いがけずちょうどぐらいで、襟元の蝶ネクタイまでつけると、なんだかいかにもバイト中って感じで自分でなんだかおかしくなる。 「……おかしくあらへんよな?」 ソファー横に置かれた全身が映る鏡を見て呟くと、俺は生まれて初めてのアルバイトの為に、カウンターへ出て行った。
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