第一章

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その後、その山崎……さんが店に出てきて二人で店を回す様子を俺はなんとなく横から見ていた。山崎さんは、物静かであまりしゃべるほうでもないけれど、良く店の中を見ていて気のまわる人のような印象だ。 物腰が穏やかだから、俺的には親近感を感じやすいタイプかもしれない。 ティタイムを終えたカフェを落ち着いて眺めてみると、店は比較的広めに開放的作られていて、暖かな木を中心としたインテリアで居心地がいい。 お客さんはそこそこ入っているけど、比較的静かな人が多いのと、割と店内のスペースがゆったりと作られているので、全体的に穏やかな時間が流れているみたいに思えた。 例えば俺が、一人でふらっと入るなら、こういう店がいいな、と思うようなカフェで。 (……うん、この店なら働いていけそうやな) ほんの少し安堵する。 ゆっくりと日が暮れはじめた頃、ヨシユキさんが店に戻ってきて、俺は代わりに着替えて店を出してもらった。 明日から、とりあえず、4時から6時までの2時間と後は、土日のどちらかは、10時から6時まで、アルバイトをさせてもらえることになって、少しホッとする。 まずは学校にアルバイトの許可をもらわないと。 それと……。 戻ったら慶に話した方がいいかなと思いながら、道を歩いていくと、目の前に慶の姿を見つけた。 一瞬声を掛けようかと思った次の瞬間、思わず足が止まった。 「…………」 d9bac631-5150-4d62-ae8b-eaea6951ed46 最初そいつの姿に気づかなかったのは、自動販売機の前でしゃがみ込んで、缶を取っていたからなのだろう。 直後に、立ち上がると、慶の肩に抱き着くみたいにして、コーラの缶を慶の顔に押し付ける、鷹塔に気づいて俺は……。 とっさに、声を掛けそうになった言葉を止めて、ほんの少しゆっくりと足取りを落とす。 「……アキ!」 けれど何かに引っ張られるようにして、慶は俺に気づいて、振り向く。 満面の笑顔はいつも通りの屈託のない慶の姿で。 一瞬、鷹塔に何か一言言うと、ダッシュで俺の方に駆け寄ってくる。 それが……なんだかすごく嬉しいけど、それをあの男の前で出すのは絶対嫌で。 ちらりと一瞬向けた先の鷹塔の顔は、一瞬俺を睨みつけるような表情をしたのは、気のせいかもしれないけれど、多分気のせいじゃない。 「お疲れ~。何、また図書館行ってきたんだろ?」 そう尋ねてくる慶の顔を見上げて、その奥の鷹塔の視線を頬の横に感じて。 「……せやな……」 咄嗟に俺はバイトの事を言いそびれる。 なんとなく、鷹塔の前で、それを言いたくなくて。 俺にとっては、働くっていう選択自体、凄く重要なものだったから余計。 「相変わらずきっちり勉強してるよな~。てか、俺腹減ったわ。さっさと帰って飯食おうぜ!」 そんな風にいつも通りの慶が、なんだか酷く苛立だしくて。 そのまま慶とも、もちろん鷹塔とも、碌に話すこともなく寮に戻ったのだ。 そしてその後、俺は、バイトの事を慶に伝えるタイミングを失ったまま、二年に入って初めての、そしてトラブルだらけの中間試験に突入したのだった。
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