第一章

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その日のホームルームを使って、俺たちのクラスは席替えを行った。 噂では聞いていたけれど、その席順は、やっぱり噂通りの物で……。 「マジ? 本気で成績順なの?」 誰かが悲鳴交じりの声を上げる。 「……基本的人権も何もあらへんわけやね……」 抗議の声とは言えないほどの小さな独り言を俺は口の中だけで漏らす。 だけど、そんな俺たちには一向にかまわずに、坂崎先生は、普段通り愛想の良い笑顔で、にっこりと笑う。 「何のための進学クラスだと思ってんだ? ぬるい学生生活にはならないって言っただろう? 毎日自分の今の順位を確認して、少しでも上の順位を取れるように頑張るんだな」 笑顔でさらっと毒たっぷりのセリフを吐く。 「マジ、表は仏、裏は悪魔の坂崎だな」 誰かのぼそりと毒づく声が聞こえる。 そんなあだ名がこの先生にあったのか。 確かに今まで通りの首席なら、席順なんて気にもしなかっただろうけれど、さっきの中間試験の結果で成績順で座るなら、俺の席は……。 坂崎先生の掛け声に合わせてクラスメイト達はしぶしぶ、成績順に席の移動を始める。 黒板に書かれているのは、廊下側から、順番に成績一位の順から並ぶという形で、当然俺の前には、鷹塔が座る。 その背中を見るたびに、ジワリと冷たい手で胸の中を掻きまわすような、嫌な感覚を感じる。 ふぅっと小さく息を逃してその心地悪さを身の内から少しでも出そうとしたけれど。 (この席に慣れへんとあかんのやろな……) 思ったよりその切り替えに苦労しそうな予感に、心の中で独り言を言う。 ……慣れることがあるのだろうか、という疑問もジワリと沸いてくる。 でも慣れる前に、奪還してやる、というほどの強い気持ちは今はわいてこない。 たかだか16年ぐらいの短い人生だけど、今より嫌な出来事も、苦しい事だって当然いくらでもあったけれども。 けど、今回の一連の流れは、自分の努力で普通に回避できたはず、と分かるから、余計自分の中で口惜しさが消えない。 鷹塔を甘く見ていた自分を恨むし、努力は嫌い、勉強なんてしたことない、なんて言う割に、鷹塔がきちんと勉強してたことも想像がつくから、奴が悪いわけじゃないけど、その事にもムカつく。 そんな黒い思いをとっさに頭を振って追い払うようにする。 勝手に恨んでもムカついても、俺の目の前にある鷹塔の背中も俺があの男に試験で負けたっていう事実も、消えるものじゃないんだけれど……。 とりあえずこんなぐちゃぐちゃな自分の気持ちが、周りに悟られるのは死んでも許せない。 だから俺は周りに気づかれないように平気な顔をして、授業に集中しているフリをした。
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