第一章

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side K その日は朝から不穏な空気が流れていた。 朝、中間試験の結果が廊下に貼りだされていて、一番上には、いつもアキの名前だったのに、今回はそうではなくて、アキの代わりに朔弥の名前が載っていた。 アキはその下。 苦手科目の化学が全体の足を引っ張ったみたいで。 とっさにアキの顔をのぞき込むと、酷く悔しそうなつらそうな、そんな困惑した表情をしていて。 俺はどう慰めていいのか、わからなくなってしまった。 放課後、その問題の朔弥と部活に出るつもりで部室に向かう途中、顧問の先生が急きょ出かけないといけなくなったということで、部活が中止になって。 「土方は部活休みなら出かけるんだってさ」 「どこへ?」 俺の言葉に朔弥がニヤリと笑って答える。 「デートだってよ」 その言葉に俺は目を細める。そうか、彼女と色々あったみたいだけど、まあ上手くやっているようならよかった。 結局、新ちゃんもサノっちもどこかに遊びに行くと帰ってしまい、俺と朔弥もさっさと寮に帰るのはつまらないとそんな話になった。 「ほら、なんて言ったっけ。あの、土方の兄貴の店」 「ああ、あの店がどうしたの?」 俺が尋ねると、朔弥は頷いた。 「そうそう、あそこの店、もう一度ゆっくり行ってみてぇって思ってたんだよな」 そう言いだすから、じゃあとりあえずあの店で、お茶でも飲んでから帰るか、という話になった。 その朔弥の思い付きで、俺は思いがけない出来事に出くわしてしまったわけなんだけれど……。
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