第一章

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「慶っ。慶ってば、どうしたんだよ」 困惑した声を上げて追いかけてくる朔弥に、何か説明する気にもなれなくて、 俺はそのまま何も言わずに部屋に戻った。 今朝までアキと一緒に過ごしていた部屋。 どのくらい前から、アキがアルバイトを始めていたのか、それすらわからないけれど。 でも、多分ゴールデンウィークも、毎日忙しいといって、どこかに出かける事も無かったことを考えると、多分あのころにはすでにアルバイトを始めていたはずだ。アルバイトの為に部活も休部したんだろう。 何も気づけなかった自分も許せないし、同じ部屋で寝起きをしながら、俺に対して何も言ってくれなかったアキに対しては……。 なんだろう……。生まれて感じたことのない、『関係性の喪失』みたいな不安定な感覚を感じている。 大事に思っていたからこそ、俺だけが勝手にそう思っていたんだなってそんな風に思えてならない。 ふと、部屋の中央でぐるりと部屋を見渡す。 去年の事を思い出す。 ここでアキは泣いたり、熱を出したり、俺に対して毒づいたり、勉強を教えてくれたり……。 それに俺の事を、ちゃんと恋人として見ててくれるってそんな風に思っていたのに……。 「………………ダメだ」 きっとここの部屋にいて、アキが戻ってきて、また今までみたいな日常が戻ってきたら、きっと俺はその事実に耐えられなくなる。 アキに感情的にあまり良くない感情をぶつけたり、もっと傷つけてしまったり。 俺が勝手に一人で思って、一人で傷ついているだけなのにって。 そんな風に思ってしまったら、なんだか苦しくて苦しくて。 気づくとそこらへんにあるものを手当たり次第、ボストンバックに詰め込んでいた。 とにかく何かの作業に集中してると、気分がほんの少しだけマシな気がした。 内心はずっと嵐が荒れ狂っていたけれど。 裏切られたってそんな気持ちは抜けなかったけれど。 荷物をまとめて、俺は小さくため息をつく。 そのボストンバックを持ち上げて、俺は部屋をゆっくりと出ていく。 一瞬振り向いた部屋の中に、いつも通りほんの少し不機嫌そうな顔をした、そのくせどこか嬉しそうな顔をした、アキが笑っているような。 ……そんな気がした。
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