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side A
きっと客は任せられないと思ったのだろう。
ヨシユキさんは、その日は俺に延々とキッチンで作業をさせた。
レモンを大量に切った。
氷砂糖と一緒に、スライスしたレモンを交互に重ねて、レモンの砂糖漬けを作らされて。
それから、凍っている生姜をおろし金で下して、それを蜂蜜と煮てジンジャージャムを作らされる。
コーヒー豆の寄り分けも手伝わされたし、ピクルスも漬け込んだ。
ずっと作業をしていると、頭は少し空っぽになるのに、何度も何度も、慶の立ち去り際の表情だけが頭に浮かんだ。
あんな顔をした慶を見たことがなかった。
俺の見たことのない慶の姿に、思った以上に俺は不安な気持ちを感じていた。
やっぱり言いにくかったからって、言わなかったのは、俺が圧倒的に悪い。
もしも……。
逆の立場で、俺が慶から何かを隠されていたら。
きっと俺なら、二度と慶の事を信用できなくなるかもしれない。
まあ、慶の事だから、そこまで深刻なことにはならないだろうって、どこかで冷静に判断していたつもりだったけど、でも、それは冷静なつもりの希望的観測だったのかもしれない。
いつもよりずっと長く感じるアルバイト時間を終えて、俺は慌てて、寮に戻る。
少しだけ早く出られたから、夕食前に、慶とちゃんと話し合いができる。
そうしたら、ちゃんと謝ろう。
慶に心配かけたくなくて、傷つけたくなくて、言ってなかったあの人の現状も言わないと。
もし俺が慶の立場なら、あの人の現状も含めて、ちゃんと誤魔化さず話して欲しいって、そう思うから……。
どこかでずっと甘えていたんだと思う。
自分は感情表現が不器用で、すぐ不機嫌になる。
そしてその感情のままに八つ当たりみたいに嫌なことをしても、慶はいつもにこにこ笑っているから、
だけど、慶だって嫌なことをされたら傷つくし。
……もしかしたら、俺を嫌いになるかもしれない。
そのことに思いついた瞬間、ぞっと背筋が寒くなるような気がしていた。
慶は、不器用な俺の代わりに、自分から近づいてきてくれてた。なのに、俺はいつも遠ざける様なまねばかりして。
許されると言う事実にいつも甘えていたんだ。でも、それだって人として許せる限界がある。
だけど、その扉を開けるまでは、それでもまだ限界までは、もう少し余裕があるって、そんな風に思っていたんだ。
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