第一章

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俺はその日の朝、いつもより少し緊張して目が覚めた。 そっと二段ベッドから抜け出して、窓から朝日を確認する。 白くてまぶしい朝日は、今日一日が晴天に恵まれることを示しているように思えた。一瞬、二段ベッドの上でまだ寝ているアキの様子を窺う。 「……大丈夫だよな」 パチンと頬を抑え込むように、両手で顔を圧迫すると俺は出かける準備を始めた。 *********** 「今朝はえらいこと早く起きたんやな」 食堂でアキと並んで朝食を食べていると、アキがくすりと目を細めて笑う。 「なんか、ちょっと緊張しててさ」 「へぇ、慶が緊張することなんかあるんや」 くすくすと笑うアキを見て、アキは別に俺とクラスが別でも構わないのかなと、なんか妙に寂しい気分になってしまう。 ふと鋭い視線を感じてそちらに目をやると、何が気に食わないのか、アキをじっと睨むようにしているのは編入生の『鷹塔 朔弥』だ。 どうやら奴も実家はここら辺ではないらしい。それで、寮生活を選択したって事みたい。 最初に奴に会ったのは土方の兄貴がやっている喫茶店で、土方の後輩の話では、奴は編入試験でどうやらものすごい点数を叩き出して、うちの学校に入ってきたっていう話だ。 けどアキの入学時の点数も、学校始まって以来の高得点だったから、勝手に教職員の中では、どっちの方が成績がいいのか、と相当話題になっているらしい、なんて噂がすでに寮内で流れている。 おかげで気づけば新学期が始まる前から、二人の間にはライバル関係みたいな ピリピリとした、妙な緊張感みたいなのが漂ってきていて。 「頭のいいやつって、結局プライド高いんだな~」 ぽそっと俺が呟いた言葉に、アキが一瞬眉を顰める。 「なんや?」 「いや、なんでもないって」 俺にはそんなプライドは到底ないけど、学年トップの成績はいらないから、上位40番までの成績が欲しい。 そしてアキと同じクラスになりたい。 なんてことは口にすることができないから、慌ててどんぶりのご飯をかきこんで、そのままお茶で一気に流し込む。 うん、と一つ頷いて、 「学校、いこか」 俺が勢いよく立ち上がると、アキはちょっとあっけにとられたような顔をしながらも、一緒に立ち上がる。 そして二人して通学かばんを持って、寮の食堂を後にした。
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