第一章

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「やっぱ、古文の坂崎だ……」 誰かのぼそっと囁く声がする。古文の坂崎先生は、進路指導を兼ねている 40代後半のベテランの先生だ。 ちょっと髪の毛が薄いのはご愛嬌ってことで、でも授業も面白いし、基本的には結構当たりの方の教師と思う。 ちょっとほっとしながらも、予想通りだなって思っている。 だって進級クラスは、例年進路指導担当が担任になることが多いからね。 「あの後ろの誰だ?」 後から小学校から持ち上がり組の江藤の声が聞こえる。 俺も思わず首を傾げた。なんせ小学校から持ち上がりだけあって、しかも教師の移動の少ない私立高校だし、学校の先生は大体全部把握している。 だけどそこに立っている先生は、全く知らない先生だった。 すらっと高い身長。 細身の体に白衣をまとっているのは、理科の担当教師なのかもしれない。 年齢は多分30代前半か、半ばぐらい。 銀縁の細い眼鏡を掛けていて、さらさらした前髪がその眼鏡に軽く掛かっている。目元が涼やかで鼻筋が通っていて、その下には薄い唇が柔らかに弧を描いていた。 一般的には相当なイケメン教師、って言っても過言じゃないと思うけど。 (なんか、蛇みたいな目だな……) 咄嗟に俺はそう思ってしまって、思わず眉をしかめる。 「ってことで、予想してたやつも多そうだが、二年S組担任の坂崎だ。担当教科は国語・古文だ。こっちは、副担任の藤城先生。大学の研究室から、今年教育現場にやってきた教師としては新人だ。担当教科は化学だ」 紹介された佐藤先生は、俺達の方を見て、瞳を柔らかく細める。 「はじめまして、藤城です。坂崎先生に紹介されたように私は新人で、ほとんどの皆さんは、この学校では私にとって先輩になります。色々わからないこともあると思いますが、坂崎先生の指示をいただいて、皆さんと勉学に励みたいと思いますので、宜しくお願いします」 涼やかな声がクラスに流れて、なんか一瞬クラス中がぼぉっとなってしまう。 って男相手なんだけど、そのくらい雰囲気のある先生なんだ。 その雰囲気を即座に感じ取ってか、坂崎先生は、パンパンと手を叩いて俺達の関心を引く。 「このクラスは知っていると思うが、国公立と、難関私立大を目指すクラスだ。他のクラスと違って、内部推薦を希望しているぬるい奴は基本的には入ってきてない。 とはいえうちの学校の方針で、勉学以外は文化祭も体育祭も、行事ごと全部、他のクラスと同じようにこなす」 一瞬ちらっと坂崎先生が俺を見たような気がしたのは気のせいか。 思わずピシッと背筋を伸ばして座ってしまった。 「さてと、じゃあ、まずは始業式に出席するぞ。順に体育館へ移動」 といったくせに、先生は一瞬足を踏み出しかけて、俺たちに向き直る。 「ああ。始業式後の一発目の授業はクラスミーティングからだ。ってことで、まずは自己紹介からしていくか。このクラスのメンバーは、仲間でライバルだ。情報は一つでも多く持っている方がいいからな。お互い出し惜しみするなよ?」 にやりと笑うと、クラスのあちこちから小さな笑いが起こる。 進学クラスだけど、今のところ雰囲気は和やかだ。 「じゃあ、まずは藍谷、二限目の最初はお前から自己紹介してくれ。みんな何を言うか、始業式の間に考えておくんだぞ」 坂崎先生は腕時計をちらっと見ると、顔を上げて俺達に通る声で再度告げた。 「……じゃあ教室移動。体育館に行くぞ」 その坂崎先生の声に全員が席を立った。 何故か俺は一瞬だけ、藤城先生と視線が合い、なんとなく落ち着かない気持ちで視線を逸らしたのだった。 ↑ 副担任の先生の名前を変えていたのを忘れてました。 佐藤先生→藤城先生、に変更済みです。よろしくお願いしますっ
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