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side A
「もうええかな……」
時計を確認して、俺は学校の図書室から出た。部活の方は悩んだあげく、いったん休部願いを出したから、放課後は時間がある。
慶は多分部活に行っているだろう。例のややこしそうな編入生も剣道部に入るって言ってたから、部活見学に行っているかもしれない。
(まあ、アイツの事はどうでもええけど)
とはいえ、何かにつけて突っかかるようなことをしてくるのは少々面倒くさいし、無視したい気持ちでいっぱいだ。
というか、正直俺の方はそんなのにかまっている余裕がない。とりあえず、当座の生活に必要なお金ぐらい、稼いでおかないと不安が付きまとうし……。
俺はまずは図書館に行き勉強をしながら、3時間ほど時間をつぶしてから、
俺はこの間慶と一緒に歩いた道を通って、その店に向かう。
大きな扉を押すと、カランと涼しげな鈴の音が鳴った。俺はゆったりとした店内をのぞき込んで、大きなアンティークオルゴールの向こうに貼られていた紙に視線を向けて、それを心の中で読み直す。
「うん……」
小さく吐息をついて、カウンターに向かって歩き出す。
カウンター前にいるのは、この間の土方のお兄さん、と言っていた人だ。チラリと向けた視線に気づくと、にこりと笑みを浮かべた。
「いらっしゃいませ。あれ? 君はこの間、慶君と一緒に来た子だね。トシの同級生の子だよね?」
気さくに声を掛けてもらえたことにほっとして、そのままカウンターの席に座る。
「はいそうです」
「君、関東の子じゃないの? 言葉のイントネーションがちょっと違うね」
「ああ、京都出身なんです。こっちでは寮にいてます」
「そうかあ、大変だそりゃ」
元々人見知りをする方だけど、なんだかこの人、顔が結構土方に似てるから、
意外と自然に会話ができた。
「で何、注文する?」
聞かれた言葉に、ホットの紅茶を頼んで、土方のお兄さんが丁寧にティポットを温め、紅茶を淹れる姿をじっと見つめていた。
「……ん? 何かある?」
俺の様子がちょっと違うことに気づいたのだろうこちらに視線を向けて首をかしげた。
「あの、土方って部活帰りにこっちに寄るって聞いたんですけど?」
そう尋ねると、彼はちらっと壁に置かれた古めかしい時計に視線をやった。
「ああ、トシと待ち合わせか。もうじきこっちにもどってくんじゃないかな?
どっちにせよ、アイツ、バイトのシフト入ってるしな」
土方と土方兄が一番違うのは、にこにこ愛想のいいことだ。
ふとそう思ってクスッと笑うと、土方兄はにやっと笑い返して、紅茶のティポットと、ティカップをこちらに出しながら、そう答えてくれた。
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