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「彩翔。お風呂の準備はもう出来ているので先に入ってきてください。」
「え、いいの?じゃあありがたく入らせてもらおうかな」
食事の準備を川上がしている間、吉野は既にお風呂の準備をしていたようで、食事が終わるとすぐ染井にお風呂をすすめた。
染井がお風呂場へ入ると、吉野と川上はソファに向かい合わせに座った。
「・・・桜輝。さっきは言葉が足りなかったように思います。私は自分がしてきたことは決して忘れていません。仕事をサボっていたことも、彩翔を無視していたことも。」
「おれも、さっき、はカッとな、た。でも怜、謝って、ない。な、のに、ゆるせな、」
「先日。龍と会ったんです。」
龍とは、染井と川上、吉野の担任であり、吉野の従兄弟でもある男のことである。
「せんせ、何って?」
「後から悔やむような行動はするな。とだけ」
「そ、か」
「桜輝。あなたはいつの間にか生徒会に戻ってましたよね。それは、どうしてですか?」
「それは・・・一番、だい、じにしたい、もの、が分かったから」
「そう…ですか…」
怜side
一番大事なもの、ですか…
私にとって一番大事なものは、愁、だと思う…
多分…
愁と会った時、自分の世界が明るく照らされたような気がした。
今まで自分を取り繕うことでしか周りに受け入れてもらえないと思っていた私に、愁は「ありのままのお前でいい」と言ってくれた。
愁のことはすぐに好きになった。
外見は少し変わっていたけど、そんなの関係なかった。私は、人は中身だという言葉を証明するかのようにどんどん愁に惹かれていった。
それからの私の行動は、ひどいものだと思う。自分勝手な理由からの行動は人に迷惑をかけ、学園を混乱させ、そして、彩翔を傷つけた。
一緒に居たいからと仕事をさぼり、親衛隊の暴走は親衛隊が勝手にしたことだと決めつけ放っておいた。
ただ、彩翔に会った時は、なぜかいつも胸がざわついた。
愁と話しているところや一緒にご飯を食べているところを見るのはなぜだかすごく辛かった。
それを感じたくなくていつの間にか彩翔を無視するようになった。その度に彩翔が傷ついた顔をしているのは気付いていたけど…
そうしているうちに、ある時食堂で彩翔にひどいことをしてしまった。
今さら言っても言い訳にしか聞こえないが、なぜ自分があんな行動をとったのか分からない。
あの時は、どういう訳かただただ2人を離れさせたかった。
今までの行動を彩翔が許してくれるかは分からない。許してくれるとも思っていない。
それでも、明日の新入生歓迎会が終わったら、彩翔に謝ろうと思う。
これまで仕事を押し付けていたこと。今回の新歓の準備も大変だったはずなのに何も言わずにやってくれていた。
それに、今までのひどい態度をとって傷つけてきたことも。
今日、2人に会えて本当によかった。
もう生徒会に戻ることは許されないかもしれないけど、それでもこの数時間だけでも話せてよかった。
✿︎❀✿
「そういえば、彩翔は食事の量が少なくなりましたね」
「あや、たくさ、ん、食べれな、なった」
「それは…もしかしなくても私たちのせい、ですよね……」
ああ、きっと龍はこのことも知っていたんだろう。
あの言葉は、私が彩翔のことを知った時を見越して、「お前に後悔する権利はない。」と、そう言っていたんだろう。
自分の行動がいかに愚かだったのか、今になって気付く。
それでも後悔することは許されない。
だって、それは自分が選択してきたことだから。
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