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今まであまり注視したことはなかったが、彼女は割と長身だった。175センチの俺と目線がそこまで変わらない。170センチ前後はあるのではないか。
普段はひとつで縛っている甘栗色の髪は今日はおろしていて、冬の冷たい風になびいていた。
病院ではマスクをしているせいで目元しか見えていなかったが、思ったよりも童顔だった。体型はスレンダーだが頬に少し肉がついていてそれがなんとも可愛らしいギャップを生んでいた。
「どうかしました?」
そんなことを考えていると、彼女が俺を覗き込んできた。俺は少し恥ずかしい気持ちになり、目線を逸らした。
「いや、なんでも」
気を紛らすように新しいタバコに火をつける。なんだか落ち着かなくて、吸い込む煙の味を感じられない。
ブーブーと、静かな川辺に似合わない音が響いた。俺と彼女は同時にポケットを探る。
鳴っていたのは彼女のスマホだった。
「ちょっとすいません」
彼女は電話に出た。暗闇の中で青白く光る画面が少し悲しげに感じた。
彼女は2、3分ほど話した後、電話を切った。そして新しいタバコに火をつけ、深く息を吸った。
「彼氏に呼ばれちゃったんで、これ吸ったらいきますね」
俺は「ふーん」だとか「わかりました」とかそんな返事をしたと思う。そのあとは何か他愛もない話をしたのだろう。
気づけば遠ざかる自転車の音は聞こえなくなって、俺は一人で流れる川を見つめていた。
どことなくやらせない気持ちを表すかのように、魚が跳ねた。
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