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返信は30分前に来ていた。
「「今日も暇ですか?」」
俺は少し震える手でLINEの通話ボタンを押した。1コール、2コール。不安と期待が入り混じった時間だった。
4コール目で画面が切り替わり、彼女の声が聞こえた。
「お疲れ様です」
どこか安らぐその声に耳を傾けながら、俺はできるだけ平静を装って声を絞った。
「お疲れ様です。今日は仕事大変でした?」
会話の大半は仕事の話だった。今日は昨日よりも会話の盛り上がりが少ないように感じて、俺は焦った。
人を楽しませる会話にはあまり慣れていなかった。できるだけ笑い、少しでも彼女の話に反応するようにした。
2時を回った辺りで彼女の声色が変わった。甘いような、眠い声。昨日と同じだ。
おやすみは言わなかった。ただ彼女からの反応がなくなるのを待ち、彼女が眠ってからその寝息に耳を傾けた。
変なことをしているのは自分でわかっていた。彼氏のいる女の寝息に聞き耳を立てるなんて変態のすることだ。
しかしそれが落ち着くのだ。次第に俺も睡魔に襲われた。目覚ましをつけ、目を瞑る。
最後に「ん」と寝言が聞こえた。その音の余韻を噛みしめ、背徳感のような妙な感情を抱きながら俺は眠りについた。
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