タバコ

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 現実に引き戻したのは無情なアラームの音だった。  俺は彼女を起こすまいと慌ててアラームを消した。その勢いで謝って通話も切ってしまった。  時刻は7時半。俺は「ありがとうございました」とだけLINEを送った。  パジャマから服に着替えるとき、パンツに違和感を感じた。  虚しさと切なさの入り混じる感情の中、スマホは見ずに職場へと向かった。  彼女は休みだった。知っていたことだが、その事実がさらに俺のやる気を削いだ。  まったく集中できない一日だった。患者と話すときも心底興味がなかった。  頭に浮かぶのは彼女のことばかり。夢の中の感触はもう忘れてしまっていた。しかしその欲望は確かな物だった。  昼休憩にLINEを開いた。通知は消したままだ。    2件の新着メッセージはどちらも彼女からのものではなかった。そのLINEを未読のまま無視し、Bluetoothのイヤホンを繋げた。  プレイリストには悲しげな曲が詰まっている。俺は明るい曲よりも失恋だとかダークな雰囲気の方が好きだった。  適当に再生すると、案の定失恋ソングだった。まるで今の自分の心情を比喩されているかのようで気分が悪かった。  俺は立ち上がり、仕事に戻った。休憩時間はまだ10分残っていた。  病棟ではエンゼルケアが待っていた。患者は70歳の女性だった。    
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