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俺は遺体を横に向け、服を脱がせた。亡くなっているので、多少無理矢理やっても文句は言われない。
急性期病棟に配属された俺は誰よりもこのエンゼルケアを行なっている自信がある。今日も慣れた手つきで着々と作業を進めていた。
「なんか、切ないですね」
集中していた僕は一瞬反応に遅れたが、すぐに顔を上げた。
それは正面で死化粧をしようとしていた看護師が発した言葉だった。
「はぁ、、、」
なんのことか分からず、俺は肯定でも否定でもないニュアンスで言った。
「結さんはどう思いますか?」
少し驚いた。この看護師とはほとんど話したこともないのに急に名前で呼ばれたからだ。僕はあまり職場の人と仲良くするわけでもないから、大体の人は名字にさん付けで呼んでくる。
「どう思う、と言うと?」
質問の意図がわからなかった。看護師は穏やかだがどこか悲しげな声で言う。
「人の死です。いつか私たちもこうなって、誰かに看取られんです。そう考えるとどこか切なくないですか?」
言いたいことは分かったが、共感はできなかった。死ぬとなんて考えたこともない。そんなことは遥か先の話だし、今の自分には関係ない。
「あんまりそういう考えはないですね」
俺は素直にそう伝え、作業に戻った。看護師はそれ以上何も言わず、黙って仕事をしていた。
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