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家に帰ってまずやるのはノートパソコンの電源を入れること。
ローテーブルにはコップ入り麦茶をおき、パソコンをちょっとずらして位置を調整。
明るさよし、ボリュームよし、準備は万端整った。部屋着のパーカーに着替え、ブクマ済みのトップに飛ぶ。
「こんにちは」
軽快な音楽と共にログインすると、リュウさんが真っ先に手を挙げて挨拶してくる。
「おっ、マイラっちこんちはー。二番乗りだね」
「他の人は?まだ来てないんですか」
手庇であたりを見回すけど、中央広場に他に顔なじみはおらず。
「もうすぐくるんじゃない?しゃべりながら待ってよ」
リュウさんに誘われて噴水の縁に腰をおろす。
リュウさんはチャラいイケメン、もといワイルドな見た目をしてる。無造作ヘアーの茶髪をハーフアップに結い、革のチョッキを羽織り、腰のベルトにダガ―を差している。背中の矢筒には予備がたっぷりと。
ひょっとして、デートって思われてたりしてない?
ネトゲが原因でカップル成立はよくある話だ。実際広場で仲良くアイスをなめあってるカップルもいる。翼人と竜人、エルフと獣人、人間とドワーフ……種族と性別の組み合わせは様々。
「リュウさんは種族即決でした?」
「ダークエルフと迷ったけどやっぱコレかなって」
「人間は眼中なし?」
「異世界だしスタマイズの幅広い方がいいかなって。けもみみしっぽ萌えんじゃん」
「ですよねー」
「マイラっちは?即決?」
「割と即決ですね。やっぱ憧れるじゃないですかエルフって、不老不死で賢く美しい伝説の存在。異世界ファンタジーだと大抵正ヒロインとか主人公のライバルとかおいしいポジションだし」
「そっち系の漫画やラノベ好きだって言ってたもんね」
「おかげ様でクラスじゃオタ扱い……あ」
反射的に口を塞げば、リュウさんが片手を振ってとりなす。
「すいません」
「メタ話タブーじゃねえし。てかいまさらっしょ」
「よかった」
「マッキマキはそのへんうるせーけど。バスターソードに痛々しい名前付けてるとこ見んと厨二病ひきずってんのか」
「リュウさんて話しやすいんですよね、近くに住んでる従兄弟のお兄さんみたい」
「そこはお兄ちゃんでよくね?」
「兄貴と仲悪いんで」
「ひょっとして年齢もまま?」
リュウさんがからかい半分に私のステータスをクリック、「age14」をカーソルで示す。
「下心ありで言ってます?」
「ごめん忘れて」
「怒ってないですよ」
反省するリュウさんをあっさり許す。悪気がないのはわかってるから。
「まあ、おんなじです」
リュウさんは「へえ~」としきりに感心してる。今度はこっちの質問ターン。
「リュウさんはリアル27歳?結構行ってますけど、ひょっとしてニート?」
「ずばり切り込むね」
「長時間ログインしてるし」
「仕事サボ、じゃねえ、休憩時間にスマホいじってるだけ」
「何の仕事?」
「古着屋のバイト」
「暇なんですか?」
「ずばずばくるね」
さすがにやりすぎか。リュウさんが仕返しとばかり、ニヤケた顔で突っ込んでくる。
「ガッコに好きな人とかいんの」
「え」
脳裏に浮かぶのはクールなクラスメイトの顔。
「いるんだ?どんな子?」
「言いませんて、この話はいいじゃないですか」
「なげっぱはずるくね?」
困っていた所に「おーい」と駆けてくる3人。巨大な斧を担いだ髭もじゃドワーフの戦士、純白の翼が神々しい翼人の僧侶、青髪を逆立てた人間の勇者。
「やっとこギルドメンバーそろい踏みかよ、待ちくたびれた」
リュウさんがお尻をはたいて立ち上がり、縁石に立てかけといた杖を持って慌てて続く。
リュウさんとの恋バナはそれでお開きになり、私はホッと胸をなでおろした。
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